紙面から

家族でつかんだ 田知本遥選手、代表逃した姉が献身

柔道女子70キロ級を制した田知本遥選手(右)の金メダルを手に笑顔の姉愛さん=10日、リオデジャネイロで(ゲッティ・共同)

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 表彰式が終わると、満面の笑みでスタンドに金メダルをかざし、何度も頭を下げた。視線の先の姉は、あふれる涙をタオルでぬぐった。

 柔道女子70キロ級で優勝した田知本遥選手は、姉の愛(めぐみ)さん(27)と二人で五輪の畳に立つことを夢見てきた。だが、そこにたどり着いたのは自分だけ。心を引きちぎられるような思いを力に変えて、念願の金メダルをつかんだ。

 代表選考レースでは78キロ超級の愛さんの方が先を行っていた。遥選手は昨年、ドーピング違反の恐れのある市販の風邪薬を服用してしまい、国際大会への出場を取りやめた。「もう五輪は目指せないかもしれない」。どん底の日々。ずっと励まし、練習に付き添ってくれたのが愛さんだった。

 遥選手は今年二月の国際大会で巻き返し、四月の全日本選抜体重別選手権で優勝。二度目の代表の座を射止めた。だが、同月の全日本女子選手権決勝で愛さんは左ひざを負傷。全治二カ月と診断され、代表も逃した。

 四年前のロンドン大会でも愛さんは最終選考会で敗れ、土壇場で代表入りを逃した。遥選手は何と声をかけていいか分からず、姉妹はしばらく会話すらしなかったという。

 だが、今回は違う。本番が近づくにつれて高まる不安。時には愚痴だって言いたくなるし、練習のアドバイスも欲しい。姉はすべてに耳を傾け、一番の相談相手になってくれた。遥選手は「おかげでここまで頑張れた」と振り返る。

 五輪が始まる一カ月前、愛さんは遥選手に手づくりの日めくりカレンダーを贈った。そこには手書きでこんな思いが記されていた。「私が代表になれなかったことに意味があるとしたら、遥を全力でサポートすることだと思う」

 表彰式後、遥選手は姉の元に向かい、その胸に金メダルをかけた。「自分のことのようにうれしい。こんな気持ちにさせてくれた妹に感謝している」と愛さん。姉妹の夢の結晶はずっしりと重かった。

 (兼村優希)

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