紙面から

32歳松田選手、後輩鼓舞 リレー快挙

競泳男子800メートルリレーで銅メダルを獲得し、喜び合う(左から)小堀勇気、江原騎士、萩野公介、松田丈志選手=9日、リオデジャネイロで(今泉慶太撮影)

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 その一かき一けりに競技人生のすべてを込めた。競泳男子800メートルリレー決勝。日本のアンカー、松田丈志選手は「しびれました」と後輩たちの期待を背に力泳。三位でゴールした。この種目で一九六四年東京五輪以来、五十二年ぶりのメダル獲得の快挙。「ほっとした。最後の仕事をやり切れて良かった」。これが最後の五輪と決めていたベテランは、仲間たちと肩を組み晴れやかに笑った。

 中京大在学中のアテネ五輪から四大会連続出場。しかし三十路(みそじ)に入り、北京、ロンドン五輪と連続で銅メダルを獲得した200メートルバタフライで、代表入りすることができなかった。「旬な時というか、すごくいい時は八の練習で五十ぐらいの結果が出るが、今は本当に十を出そうと思ったら十二、十三ぐらいの感じでやっていかないといけない」。年月と共に確実に進む衰え。必死にあらがい、リレーメンバーとして五輪にやって来た。

 全盛期の力はないかもしれない。代わりに持つ経験は、後進にとってはかけがえのない宝。「引っ張っていかなければいけない重圧はあった」。メンバーに対し、時には厳しい言葉もかけた。初の五輪代表に満足感を漂わせていた江原騎士(ないと)選手(23)は、松田選手に「このメンバーなら金メダルを狙える」と叱咤(しった)され、目の色を変えた。

 そんな先輩の熱にほだされ、他のメンバーも「丈志さん(松田)を手ぶらで帰すわけにはいかない」を合言葉に、チームの一体感を高めていった。

 松田選手を幼少期から「ビニールハウス」のプールで鍛え上げ、ともに五輪で四個目のメダルを獲得した久世由美子コーチ(69)は「夢を持たせてくれた松田という選手に出会えて良かった」と感慨深げに話す。日本が弱いとされる自由形。そのリレーで表彰台に上がり、松田選手は「これで本当の競泳大国と言える」と置き土産を誇った。 

  (高橋隆太郎)

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