紙面から

愛知から渡欧10年、歴史つくった 羽根田、カヌーで銅

カヌー男子スラローム・カナディアンシングルで銅メダルを獲得し、感極まる羽根田卓也=9日、リオデジャネイロで(代表撮影)

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 愛知の川から世界へ。銅メダルに輝いた羽根田卓也(29)は高校卒業後、単身、強国スロバキアで武者修行して十年。二つの国で磨いたパドルさばきで快挙にこぎ着けた。

 一発勝負の決勝。「迷いなく、ゼロか百かのタイム勝負に突っ込んだ」。ゲートぎりぎりを全速で進む。ゲートに触れ減点される恐れもある難しい選択。覚悟を決めたのはスロバキアの“レジェンド”に背中を押されたからだ。五輪へ向かう直前、心技体すべてを手本とする五輪二大会金メダリスト、ミハル・マルティカン(37)が羽根田の肩に手を置いて言ったという。「タクヤ、歴史をつくれ」

 結局、一度もゲートに触れなかった。スロバキア人のクバン・ミラン・コーチ(39)が世界トップ級と評するバランス感覚のたまものだが、原点は小学三年まで習った器械体操にある。小二でバック転を繰り返し、周囲を驚かせた。カヌー転向を命じた元カヌー選手の父邦彦さん(57)は地元矢作川でひとこぎした息子の安定感に「冗談じゃなく、世界を夢見た」。年に三百五十日は車に艇を積んで川に通い、今に至る繊細な技術の基礎をたたき込んだ。

 十一年前に故郷の川を出ようと決意し、父に申し出た。「世界で戦うために、欧州へ留学させてほしい。必ずメダルを首にかけてみせます」。父が許したのは、カヌー強国スロバキアの片田舎だった。

 カヌーの上でうれし泣きした。表彰式を終え「早くおやじの首にかけてあげたいなあ」。スタンドから浴びた拍手と歓声。邦彦さんら応援団と、日本よりも有名というスロバキアのファンの祝福が混ざり合った。「おめでとう」「ブラボー、タクヤ!」 (中野祐紀)

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