紙面から

体操男子団体が金 内村「一番重たいメダル」

体操男子団体総合で優勝し、表彰式で観客席に手を振る(左から)山室光史、内村航平、田中佑典、白井健三、加藤凌平=8日、リオデジャネイロで(内山田正夫撮影)

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 見せるべき美しさは全て見せた。最終演技者として床運動を終え、チームメートと肩を組んで他国の得点を待った内村。「JAPAN」が最上位に来たことを確かめると、精根尽きた体からさらに力を振り絞って後輩たちを抱き締めた。「個人で取った五輪の金とは全然違う。めちゃめちゃ重たい。北京、ロンドンとメダルを取ってきたが一番。僕たちの頑張りも入っているので倍以上に感じている。仲間と取る金メダルは、うれしいを超えちゃってる」

 七月三日の選手団壮行会。人気デュオ「ゆず」の「栄光の架橋」を間近で聴いた。「自分というより体操界にとって特別な歌」。あの名場面を思い返すとともに、そこに自らが登場していないもどかしさもかみしめた。

 東京・東洋高一年だった二〇〇四年八月。前日の試合の疲れも忘れ、未明のテレビに見入った。冨田洋之さんの鉄棒で決まったアテネ五輪の団体総合優勝。「伸身の新月面が描く放物線は、栄光への架け橋だ」。名実況に彩られたシーンは「好きな技ばかり練習した」と気まぐれだった少年に「世界で戦いたい」という真剣な目標を描かせた。

 初出場の北京五輪に続き、エース格で臨んだロンドン五輪も中国に敗れて団体銀メダル。最終種目のあん馬の終末技で体勢を崩してしまい、口を半開きにした表情が国際映像で流れた。あの輝かしさとは真逆の光景だった。

 一四年の世界選手権(南寧=中国)も団体は中国に0・1点差で敗北。最後の鉄棒で大差をひっくり返され、表彰式を終えると、いつもは母の周子さんに渡す花束をごみ箱に放り込んだ。昨年の世界選手権(グラスゴー=英国)で三十七年ぶりの団体優勝を果たしたものの、鉄棒で落下した悔しさが残った。

 アテネを超えるのは自分のためだけではない。「時代は流れ、より難しいことをできている自負がある。その上であれと同じレベルの完成度をみせたい。僕たちがアテネを乗り越えないと先はない」

 最初のあん馬で仲間が落下した。それでも徐々に順位を上げた。最終種目はアテネと同じ鉄棒ではなかったが、床運動は幼いころからトランポリンで遊びながら技を増やした得意種目。原点を確かめるように一つ一つ着地を決め、最後は後方伸身宙返り三回ひねり。両足を二度、三度必死に踏ん張って止めた。

 「アテネは超えられていない。でも、僕たちは新しい歴史をつくれた。僕たちには僕たちの歴史というものがある。これが東京五輪につながる」。十五歳の夏の自分のような少年、少女がきっといる。体操ニッポンの誇りを次代に引き継いだ自負がある。 

 (鈴木智行)

◆心臓に悪い日だった

 <白井健三の話> (優勝の懸かった床運動で高得点を出し)床に何かしら運命があると思って入った。いい演技ができたのはチームみんなのおかげ。人生で一番心臓に悪い日だったが、間違いなく一番幸せな日になった。

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