紙面から

高め合う師弟 寺本選手と坂本コーチ

体操女子予選段違い平行棒を終え坂本周次コーチ(左)とハイタッチする寺本明日香選手=7日、リオデジャネイロで(内山田正夫撮影)

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 バネのような跳躍でチームを引っ張る二十歳と、泳ぐたびに急成長の十六歳。体操女子の寺本明日香選手(20)=愛知県小牧市出身=は、チームの柱として団体、個人ともに決勝に駒を進めた。競泳の女子100メートルバタフライで六位に入った池江璃花子選手(16)=淑徳巣鴨高一年、東京都江戸川区出身=は圧巻の泳ぎを披露。二人のヒロインはそれぞれ恩師、母親の支えを受け、五輪の大舞台に挑み続けている。

 言葉がなくても、すべてわかり合える。その深いきずなを象徴するハイタッチだった。体操女子の予選で段違い平行棒を終えた寺本明日香選手。初出場だったロンドン五輪と違うのは、主将であるということだけでなく、小学生時代から二人三脚で歩んだ恩師がそばにいること。「先生を五輪に連れて来られてうれしい」。名古屋市で「レジックスポーツ」を経営する坂本周次コーチ(61)の宿願もかなえる舞台となった。

 京都府出身の坂本コーチは中京大卒業後に名古屋市のクラブで指導者となり一九九九年に今のクラブを開いた。九六年アトランタ五輪代表の橋口美穂さん(38)=現姓岡崎、二〇〇八年北京五輪代表の黒田真由さん(27)を育てたが代表スタッフに入ることはできなかった。一二年ロンドン五輪は外国人コーチに押し出される形となり、観客席から寺本選手に声援を送った。

 現場にいれば選手の調子を間近で確かめられ、適した器具の調整もできる。「なぜついていけないのか」と悩んだ坂本コーチは「代表を育て続け、トップの指導者になればいつか行ける」と情熱を燃やした。思いに応えるように、一四年に愛知・名経大市邨高を卒業した寺本選手は中京大に進学。愛知県豊田市のキャンパスから電車で一時間近くかかる名古屋の体育館に通った。

 「結果にこだわるところがあるけど、私の体の状態をよく理解しながら教えてくれる」と寺本選手。時に衝突し、厳しい言葉を浴びた寺本選手が更衣室にこもることがあった。それでも今年五月のNHK杯を制し、実質的なリオ五輪の代表一番手に。五輪チーム入りを打診された坂本コーチは「二十年待った電話が鳴った」と感慨をかみしめた。

 代表最年長となり「最後の五輪と思って臨む」と寺本選手。まずはチームを九日の団体総合決勝に導き、自身も十一日の個人総合決勝に進んだ。有力選手が特に東京に集まりやすい競技で「名古屋から世界へ」と励んできた師弟の挑戦が始まった。 (鈴木智行)

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