紙面から

中村、万感の涙 完敗、でも「やってきて良かった」

女子52キロ級3位決定戦 ブラジル選手(左)を破り、銅メダルを決めた中村美里=内山田正夫撮影

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 女子52キロ級で随一の怪力を誇るケルメンディとの準決勝。開始直後、中村は最も警戒する形に持ち込まれた。相手の左手で奥襟をつかまれて頭が下がり、振り回されて膝をつく。30秒足らずで指導を受けた。

 「取り返す自信はあった」と中村。実際、その後は巧みな組手で相手の攻めを防いだ。一方で、得意の足技で崩す場面もつくれなかった。戦前は「技術」の中村と「パワー」のケルメンディという構図でくくられたが、防御や試合運びも含めて上回られ、逃げ切られた。対策も状態も万全で臨み、失ったポイントは最初の指導一つだけ。だが、完敗を認めざるを得なかった。

 19歳で初出場した北京で銅メダルを獲得し、断トツの「金」候補だった4年前のロンドンは初戦敗退の失意に沈んだ。直後に古傷の左膝にメスを入れ、リハビリの日々。リオの畳に立つ自分の姿は想像できなかった。復帰直後は若手選手に歯が立たないほど。それでも、世界選手権を3度制した27歳は「自分がトップだと思ったことはない」という向上心を原動力に、三たび大舞台にたどり着いた。

 準々決勝は4分間で決着がつかず、延長も3分半を戦って寝技で一本勝ち。地元のミランダと当たった3位決定戦は、耳をつんざく大歓声の中、再び2分を超える延長戦を制して銅メダルを勝ち取った。逆境にも顔色を変えなかった中村だが、表彰台では涙がにじんだ。「いろいろな経験をして、成長した自分で戦って勝てなかったのは悔しい」。ただ、挑戦し続けた4年間に悔いはない。「やってきて良かった」。強がりではなく、心の底からそう思えた。

 (井上仁)

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