紙面から

海老沼、最後は堂々

男子66キロ級3位決定戦 カナダ選手(右)を一本勝ちで破り、銅メダルを決めた海老沼匡=内山田正夫撮影

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 「五輪、難しいですね」。男子66キロ級の海老沼はそうつぶやき、フッと力を抜いた。2大会連続の銅メダル。世界戦選手権を3度制した男でも、五輪の頂点には手が届かなかった。何が足りないのか。「それを探し求めて4年間やってきたけど、なんですかね。僕には分からないです」

 らしくない姿を見せたのは、世界ランク1位の安バウルとの準決勝。動きが止まるたびに審判に目をやった。相手の偽装攻撃をアピールするためとみられるが、日本男子の井上康生監督が「そういうそぶりを見せない選手」という珍しい光景だった。

 負けられない重圧が、どんな体勢からでも投げて一本を狙う男の足を止めたのか。特に中盤に指導を一つ奪ってから、消極的になり過ぎた。残り30秒を切って逆に指導を受けて同点となり、延長戦で強引な投げ技を返された。「言い訳になるので」と明かさなかったが、試合中に脇腹を痛めたようなそぶりもあった。不完全燃焼の結末に、「僕の人生でも悔いの残る試合になった」と眉間にしわを寄せた。

 男子ではただ一人、ロンドン五輪から連続出場を果たした。4年前は準々決勝で旗判定がやり直される異例の事態にも振り回され、表彰台で笑顔はなかった。銅メダルは箱に入れて実家の棚に置いたまま、見返すことはない。26歳になり、故障や体の衰えと向き合い、若手の突き上げに苦しみながらも、「五輪の借りは五輪でしか返せない」という思いで走り続けてきた。

 3位決定戦は代名詞の背負い投げで一本勝ちし、最後に自分らしさを取り戻した。ロンドン五輪の表彰式は覚えていないというが、この日は応援してくれる人の声や姿、悔しさも胸に刻み付けた。雪辱を果たせず、今回も笑顔はつくれなかったが、堂々と胸を張った。

 (井上仁)

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