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総合

声、届かない 施設の知的・精神障害者

2019年7月21日

市選管の係員(右)から説明を受け、期日前投票をする女性=愛知県津島市役所で

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 一票を投じる権利はあるのに、行使が難しい人たちがいる。施設に入る知的障害者や精神障害者だ。投票所に足を運ぶことが困難な人が少なくないにもかかわらず、施設内での不在者投票が原則として認められていない。投票所での介助者の代筆も許されず、投票しやすい環境が十分に整っているとは言えない。制度のはざまで、それぞれの一票がこぼれ落ちている。 (清水裕介、大野雄一郎、鈴木里奈)

 愛知県津島市役所に設けられた期日前投票所。政党名や候補者名を記した紙が張られた投票記載台で、知的障害のある女性(54)の鉛筆を持つ手が止まった。「文字が読めないんだよね」。市選管の係員が「読み上げましょうか」と声をかけるとうなずいた。「ひらがなでもいい?」。ゆっくりと鉛筆を動かし、用紙を投票箱に入れた。

 女性が入る市内の施設には主に知的や精神に障害のある約五十人が暮らす。この日は、施設の男性職員が運転する車で、他の入所者三人とともに市役所を訪れた。

 施設では選挙のたびに入所者を投票所に連れていく。しかし、文字が書けるなど比較的症状が軽い人に限定せざるを得ず、選挙権を行使できるのは数人にとどまる。職員は「並ぶことができなかったり、パニックになったりする人もいるから」と悩ましげに話す。

 施設には別の悩みもある。県内の別の障害者施設の男性職員(43)は「投票先を誘導したという誤解が怖い。だから重度の人は連れていけない」と明かす。

 不在者投票制度は、病院や高齢者福祉施設などに施設内投票を認める。障害者施設については「専ら身体障害者を入所させる施設」と定め、知的、精神障害者が多い施設は原則認められない。愛知県選管は「法律が現実に追いついていない」と不備を認める。

 投票を巡るハードルは他にもある。文字が書けない人は代理投票制度を利用できるが、記入できるのは投票事務従事者に限られ、家族や施設職員は認められない。障害者の人権問題に詳しい大川一夫弁護士は「現在の投票制度は障害者にとって厳しい。候補者名をボタン式にするなど投票をしやすい仕組みにすることが必要だ」と指摘する。

 「みんな、一人では生きていけない」。投票を終えた後、女性は記者に言った。「投票は人の助けになると思って、毎回行っている」

◆東海の施設、対応苦慮

 愛知、岐阜、三重の東海三県には、主に知的障害者や精神障害者が入所する施設が少なくとも計百九カ所ある。参院選で、入所者を投票所に連れていく予定があるか、期日前投票で連れていったかについて調べたところ、回答した九十五施設のうち約三割の二十六施設が「予定も含めて連れていくことはない」と答えた。

 「全員を連れていく」としたのはわずか四施設で、入所者の選挙権行使を巡り施設側が苦慮している実態が浮き彫りとなった。六十五施設は「一部の入所者を連れていく」と回答した。

 連れていけない理由は「症状の重い人が多く困難」「住民票が施設外にある利用者は家族に任せるしかない」などが上がった。入所者が投票所を訪れた際に「『こんな人にも投票権があるのか』と嫌みを言われた」など、心ない仕打ちを受けたという答えもあった。

 施設内投票が原則として認められない点については「おかしい。差別だ」と憤る声や「慣れた場所なら投票できる人もいるのでは」と適用を求める声が相次いだ。

 九十五施設の入所者計四千八百四十二人のうち、施設が予定も含めて投票所に連れていくとしたのは九百九十九人(20・63%)。愛知県は12・07%と低かった。

 調査は職員同行の場合に限り、家族が連れていくケースは含めなかった。「十〜二十人の予定」とした施設は十五人とするなど、中央値で扱った。

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