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総合

年金論戦、消化不良のまま

2019年7月20日

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 老後の夫婦の蓄えに二千万円が必要と指摘した金融庁審議会の報告書が発端となり、参院選では年金問題が大きな争点となった。だが、政府、与党は選挙戦を通じて自らの主張を裏付けるデータを十分に示さず、野党の対案も具体性に乏しかった。論戦は消化不良のままで、公的年金制度の将来像や老後の生活資金に関する有権者の不安には応えていない。

 「年金を守っていく、それは強い経済をつくっていくことだ」。自民党総裁の安倍晋三首相は街頭演説で、雇用拡大や賃上げによる年金保険料の収入増を実績に掲げ、年金制度の維持を強調してきた。公明党の山口那津男代表も「制度が続くようにすることが安心感につながる」と訴える。

■素通り

 両氏が制度の「持続性」に焦点を当てるのは、自公政権が二〇〇四年に「百年安心」と銘打って現行制度を導入した経緯があるからだ。改革の根幹は、将来の年金財源を確保するため、経済情勢が好転しても年金支給額の伸びを抑える「マクロ経済スライド」だ。

 両氏は演説でこの仕組みに直接は言及しない。首相は「この四月、年金額を増やすことができた」と勝ち誇るが、給付が実質減であることは説明しない。安倍政権下で年金積立金の運用益が増えたことも強調するが、民主党政権末期の実績を取り込んだ金額を挙げ、正確さには欠ける。

 公的年金制度の信頼性を判断するための財政検証は公表されず、年金制度が将来も安心とする根拠は提示されていない。金融庁審議会の報告書には、首相、山口氏とも演説で素通りだ。二千万円の蓄えが不要とも言わない。老後にいくらの蓄えが必要なのか−。国民の最大の不安に、率直に語りかけてはいない。

■具体案

 立憲民主党の枝野幸男代表は演説で「報告書をなかったことにして、どうやって皆さんの不安を解消するのか」と批判する。国民民主党の玉木雄一郎代表も「ごまかす政治ではなく、真実を明らかにする正直な政治を実現する」と聴衆に語りかける。

 両党は現行制度の大枠を認めた上で、低年金者などへの「給付」の充実を中心に訴える。枝野氏は医療や介護などの自己負担額に上限を設ける「総合合算制度」の導入を提唱する。玉木氏は低所得の年金生活者に最低でも月五千円を年金とは別に給付すると主張する。

 ただ、両党とも低年金者への年金支給額を増やすための財源をどう確保するのか、制度の持続性をどう高めるかといった具体案を示してはいない。結果として「具体的な案は出さず、不安ばかり煽(あお)っている」(首相)との非難を許した。

■好都合

 自公と立民、国民は大枠では同じ立ち位置なのに、批判合戦に終始した。そればかりか、急速に少子高齢化が進む中、年金財源の「負担」を今後どうするかについては、さらなる増税論につながりかねないとの懸念から口を閉ざした。

 共産、社民はマクロ経済スライドの廃止・中止を訴え、日本維新の会は抜本的な制度見直しを唱えた。

 淑徳大の結城康博教授(社会保障論)は「どの政党も有権者に都合の良い話や単純な話しかしていない。建設的な議論がないのは残念だ」と指摘。老後資金に関しては「政府は年金の支給水準別に試算を出すべきだった」と話した。

(中根政人)

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