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総合

加計問題、口閉ざしたまま 地元愛媛・今治

2019年7月19日

加計学園が運営する岡山理科大獣医学部の前で「加計疑惑は忘れられている」と話す村上治さん=愛媛県今治市で

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 大詰めを迎えた今回の参院選で、国民の知る権利に欠かせない公文書のあり方は、しっかり議論されたのだろうか。民主主義の根幹とされる公文書の管理や開示を巡り、政府の姿勢が厳しく問われるきっかけの一つとなった学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設問題。舞台となった愛媛県今治市をあらためて訪ねた。

 梅雨晴れの日差しの下、学生たちがキャンパスをにぎやかに行き交う。

 加計学園が経営する今治市の岡山理科大獣医学部。安倍政権が目玉政策に掲げる国家戦略特区を使って開学し、二年目になる。今春も定員を超す入学者を集めた。

 開学当時の厳戒態勢はなく、一般開放されている敷地には市民らしき姿も。安倍晋三首相の親友が理事長を務める学校法人が優遇を受け、行政手続きがゆがめられたのでは−。国会を揺るがした加計疑惑は、すっかり鳴りをひそめる。

 JR今治駅前で市民の男性に話を振ると、「そんなことがあったねえ」と遠い目をするばかりだった。

■証拠

 参院選の公示前日、党首討論会でのことだ。「森友学園、加計学園の問題はもう終わったという認識か」と問われた安倍首相は、こう答えた。「私も妻も直接関わっていたという証拠は何一つなかった」

 解決済みだと言わんばかりの首相発言に、市民団体「今治市民ネットワーク」の共同代表、村上治さん(72)は「疑惑は何も解消されてない」と憤る。

 国会審議では、当時の政府幹部が「記憶にない」を連発。学園の報告を基に首相と理事長の面会を記した愛媛県作成文書が明るみに出ると、学園は報告はうそだったと打ち消した。今も関係者の証言は食い違ったままだ。

 村上さんは今治市への開示請求で、獣医学部開設のため、市職員が官邸を訪問した二〇一五年四月二日の出張記録を入手。ところが、国会で騒がれると、市は一転して全面非開示に。参院からの要請にすら開示を拒んだ。

■強弁

 今は開示しているのかどうか、市役所を訪ねた。

 あの日、官邸に同行した企画課長は「加計に関わる話はすべてファクスで」との一点張り。別の部署に移った当時の課長補佐は、「前の仕事のことやないですか。関係ない。関係ない」と周りの目も気にせず声を荒らげ、くるっと背を向けた。後日、市からファクスで届いた回答には「関係機関との信頼関係の破綻につながる恐れがあり、非開示としている」とあった。

 「情報公開の姿勢は不十分ではないのか」。市内で行事を終えた菅(かん)良二市長(75)を呼び止めた。

 「加計」の名前を出した途端、表情を硬くした菅市長は「とにかく一日も早い開学が一番の願いだった。メディア、野党に政局にされると困ると思った」と非開示の正当性を強調。「加計ありき」の疑問をぶつけたが、明快に答えることなく公用車に乗り込んだ。

■逆行

 政府は、加計疑惑や、学校法人「森友学園」への国有地売却に関する決裁文書改ざん問題を受け、公文書の保存・管理の徹底を誓ったはず。一七年十二月には、公文書管理のガイドラインを改定し、官庁間などの打ち合わせは記録することを義務付けた。

 だが、今年に入り逆行するような政府の対応が発覚。官邸での安倍首相と官庁幹部との面談記録が一切作成されていなかった。閣僚日程の記録も各省庁が短期間で廃棄していた。首相や閣僚が誰と会い何をしたかに関わる記録は政策決定過程の検証に不可欠だ。公的記録が残されていなければ、時の政権に都合のよい歴史が創作されかねない。

 村上さんは言う。「加計問題で痛い目にあったことで、ますます記録を残さないようになるのでは。公文書は国民の歴史そのもの。このままでは真実が闇に葬られてしまう」

 加計学園の獣医学部開設 2018年4月、国家戦略特区制度を使って愛媛県今治市が誘致し、52年ぶりとなる獣医学部を加計学園が開学した。新設の過程で、文部科学省や愛媛県の担当者が「総理のご意向」や「首相案件」と記した交渉記録を残していたことが判明。学園理事長と親交のある安倍首相の意向が働いたのではないかという疑惑が浮上し、国会でも2年にわたって追及された。首相や学園は疑惑を否定している。

 (小倉貞俊、中沢誠)

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