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総合

<現場から>限界集落に希望を 岐阜山間部「当選したら終わりでは困る」

2019年7月18日

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 著しい高齢化と人口減少で存続が危ぶまれる「限界集落」が増加している。岐阜県西部の山間部にある村落では商店がなく、お年寄りの頼みの綱は週二回やってくる移動販売車だ。参院選が終盤を迎える中、各党はさまざまな「地域活性化」策を打ち出すが、過疎の現場の実情は厳しい。

 岐阜県西部の商都・大垣市から車で約一時間。両側を山に挟まれた川沿いの狭い国道を北西へと進むと、山の斜面の一隅に数十軒の民家が密集している。滋賀県境に近い揖斐川町坂内(さかうち)地区の川上集落だ。

 その国道に一台のトラックが現れた。スピーカーの演歌が徐々に大きく聞こえ、住民らがぽつぽつと姿を見せる。運転席から降りた男性が荷台の扉を三方向に開くと、小さな店に早変わり。キュウリや豆腐、パン粉、トイレットペーパー…。多彩な品物を前にお客さんの顔もほころぶ。

 唯一の商店が十年前に閉まった集落にとって、販売車は日々の暮らしに欠かせない。「自分で買い物にいけない人もいるから、みんなの生活の支え。無くなったら困るだろうね」。近くの主婦杉坂きよみさん(78)がつぶやく。

 店は三十年ほど前から、岐阜県瑞穂市の倉知良行さん(67)が義父の後を継いで営んできた。しかし、近年は「お客さんの数は始めた頃の十分の一以下。一人、また一人と減っていく」。かつては週に四回運行したが、今は二回に減らした。

 「届けてくれる刺し身が楽しみなんだ」。もうけは乏しくても、住民の言葉を励みに山奥に通う。だが、車は老朽化が目立つ上、後継者もいない。「車が壊れるか、お客さんがいなくなるか、わしが倒れるか。その時までは続けたい」

 「消滅可能性都市」の一つである揖斐川町の中でも、坂内地区の高齢化率は六割超と高い。集落を歩くと、出会うのはお年寄りばかり。「若い人たちの移住が増えてほしい」という切実な声も聞かれる。

 高齢化は、地域を支える力にも影を落とす。地区の消防分団は現在二十二人で、二十年前に比べ半数以下に減少。今年から東西に分かれていた分団を一つに統合し、百五十平方キロもの地区全体をカバーする。分団長の高橋正二さん(54)は「七十歳を超える人も動いてくれるので何とかまかなえているが、若い人は減る一方」とため息をつく。

 地区全体の代表区長を務める中井丈二(たけじ)さん(64)は、複雑な胸中を明かす。「ここには就職先がない。子どもに退職後に戻ってもらいたくても、その頃には孫たちとの町での暮らしがある。帰ってきてほしいとは言えないよ」

 参院選について聞くと、こんな答えが返ってきた。「選挙の時だけよろしく、当選したら終わりでは困る。地域の実情を国にしっかり伝えてくれる議員を選ばなければいけない」

 (山本拓海)

 <消滅可能性都市> 2010〜40年に、20〜39歳の若年女性人口が5割以下に減少すると推計された市区町村を指す。有識者でつくる「日本創成会議」が14年に示した。当時の全国1799自治体のうち半数の896自治体が当てはまった。中部地方では愛知7、三重14、岐阜17、長野34、福井9、滋賀3自治体がそれぞれ該当した。国が過疎自治体などに調査し16年に公表した調査結果によると、回答した全国1028市町村の7万5662集落のうち、65歳以上が住民の半数を超える集落は、15年4月時点で1万5568。対象集落の20・6%を占め、5年前の調査から5・1ポイント増えている。

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