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総合

<現場から>急増外国人「共生」後押しを

2019年7月15日

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 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法が4月に施行された。国内の外国人は急増し、地域での孤立など共生に向けたさまざまな課題が浮かんでいる。人手不足が顕在化する中、私たちは外国からの働き手をどう迎え入れるべきなのか。支援者や当事者は参院選の論戦に、淡い期待を寄せている。

 日曜の朝。ベトナム出身の技能実習生チャン・バオさん(27)=仮名=は、同郷の実習生4人と暮らす名古屋市内のアパートで日本語の自習を始めた。壁には単語を書いたメモがずらり。日本語能力試験で3級に合格すると昇給があるので、勉強にも自然と力が入る。

 技能実習は近年急増している期限付きの労働資格。チャンさんは自転車で40分かかる工場で2年前から働いている。土曜の出勤や残業も多いが、「お金稼ぎたいので、残業はいっぱいしたいです」と話す。

 手取りの月給十数万円は設計士だった来日前の3倍。毎月10万円前後をベトナムに送金するので、外食や遊びに行く機会は極力減らす。3年後に実習を終えて帰国し、母国で産業通訳になるのが夢だ。

 実習分野は4月に新設された在留資格「特定技能」の対象で、申請が許可されればさらに5年の在留が可能。そうしたいか聞くと、「うーん」と悩みながら言った。「日本の生活、ちょっと寂しい」

 自宅と実習先の往復の日々。「友だち」と呼べる日本人はいない。記者が近隣の日本人住民に尋ねると「外国の人が住んでいるのは知っているけど、朝早くて夜も遅いのであいさつすることもない」と素っ気なかった。

 昨年10月現在の外国人労働者は146万人で、10年前から3倍に増えた。さらに政府は、特定技能資格の取得者が5年後に34万人になると見込む。

 地域社会からは外国人の急激な増加に戸惑う声も聞かれる。名古屋市内の住宅街に住む男性は「町内会の会合に出たら、議題は外国人の苦情ばかりだった」と打ち明ける。

 外国人が多く住む名古屋市港区の支援団体「まなびや@KYUBAN」の川口祐有子代表は「ノルウェーで普及している『言語喫茶』のように外国人と地域住民が集まって話し合える場所があれば、外国人への偏見も解きほぐせる。自治体やボランティア任せにせず、政治の力で整備してほしい」と願う。

 技能実習生を巡っては、地域での孤立だけでなく、不当な賃金や劣悪な労働環境の下で働かされる問題も表面化している。実習生を支援する愛知県労働組合総連合(愛労連)の榑松佐一議長は「人手不足の中小企業に実習生はもはや欠かせないが、人権が守られる制度に見直していくのが政治の務めだ」と話す。

 外国人のチャンさんに投票権はない。それでも日本の政治に期待することを聞くと、こう答えた。「もっと日本の人と仲良くできるようにしてほしいです」

 (谷悠己)

 <技能実習生と特定技能> 技能実習生は外国人向けの労働資格で、昨年末現在で32万8360人。外国人労働者の中では永住者や日系人、アルバイトの留学生に次いで多い。滞在期間は習熟度によって1年、3年、5年に分かれる。対象80職種のうち人手不足が深刻な14職種が4月に施行された改正入管難民法で「特定技能」に指定され、資格申請が許可されると5年間の滞在が可能。特に熟練した「特定技能2号」は家族の帯同も認められ、在留期間が無期限で更新できる。

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