<現場から>就職氷河期世代、思い複雑
2019年7月13日
大勢の通勤客に交ざり職場へと向かう鈴鹿市の男性=三重県内で |
平成の就職氷河期で人生を左右された不惑世代が、令和を迎えて社会の関心を集めている。非正規雇用で働く人が多いことから政府が正社員化の推進を打ち出し、参院選でも各党が支援策を競い合う。中年に差し掛かった当事者たちは「やらないよりはまし」と受け止める一方、将来への不安を解消できないまま毎日を過ごしている。
「ようやく目を向けてくれたけど、遅きに失したのでは…」。非正規労働の厳しさを肌で知る三重県鈴鹿市の男性(37)は、国が今になって自分たちの世代の待遇改善に乗り出したことに複雑な思いを抱く。
就職氷河期の終わり際の二〇〇四年、名古屋市の専門学校を卒業した。厳しい就職戦線の中、人材派遣会社の営業職として正規採用されたが、健康上の理由から一年たたずに退職した。
氷河期の余波から、正規社員としての再就職は難しかった。地元のハローワークで見つけた別の人材派遣会社に登録し、三重県四日市市にあるメーカーの営業所で非正規として働いた。だが〇八年、リーマン・ショックの影響で雇い止めに。さらに別の派遣会社を通じて地元大手の自動車部品メーカーで五年近く働いたが、業務の海外移管で再び雇い止めとなった。
「会社幹部が正社員と同じ職場の仲間だと何度も言ってくれていたのに。会社側からすれば当たり前のことだが、真っ先に切られる現実が怖かった」
親戚を頼り、別の人材派遣会社に正社員として入ることができた。今年二月からは県内の工場に派遣され、半導体部品の製造管理に携わる。それでも、安定した生活を手に入れたという実感からはほど遠い。「いろんな仕事をしたけど、この年でこれといったスキルはない。景気が悪くなれば、すぐリストラ候補になるんだろう」
人手不足も背景に、安倍政権は六月、新たな経済財政運営の指針「骨太の方針」を閣議決定し、就職氷河期世代三十万人を正社員にする目標を掲げた。
不安定な非正規雇用で働く人には福音とも言える政策。企業からも「四十代はまだ若手。その世代の就職を後押ししてくれるなら助かる」(津市内のタクシー会社)と歓迎の声が聞かれる。しかし、男性は手放しで喜ぶ気持ちになれない。「自分のような経験の人間を、会社は本当に採用してくれるのだろうか」
会社側からはこんな声も。機械メーカーの採用担当者(57)は「ある程度のキャリアがないと採用は難しい」と明かす。経験を積んだ同世代の社員と同じ給与水準で、経験値が決して高くない氷河期世代の中年労働者を新しく雇用するとバランスがとれないからだ。
氷河期世代には引きこもりの人もいる。同県名張市の男性(44)は今月から、運送会社でトラックに積む荷物を整理するアルバイトにいそしむ。精神の障害を患い、家にこもる状態が続いていた。「能力が乏しい自分を受け入れてくれるだろうか」。心配を抱えつつ十年ぶりの仕事に打ち込む。
参院選に向けた各党の公約には「選挙を意識してるだけじゃないか」と疑いの目を向ける。「本気なら、職業訓練の充実や新卒一括採用の見直しも含め、広くて長期的な支援策を示してほしい」
(渡辺雄紀)
<就職氷河期世代> バブル崩壊後、企業が新卒採用を絞った1993〜2004年ごろに高校や大学を卒業した世代。現在30代半ば〜40代半ばで、内閣府によると、18年時点でおよそ1689万人。このうち約2割の約370万人が非正規労働者で、少なくとも50万人が正規雇用を希望しているとされる。「骨太の方針」では支援策として、ハローワークでの専門窓口の設置や採用企業への助成制度の拡充などを挙げる。