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総合

<現場から>かさむ人件費、悩む中小 最低賃金引き上げ続く

2019年7月11日

売り場で商品を並べる従業員=名古屋市南区の生鮮ひろばサンエース新郊通店で

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 政府が最低賃金の引き上げを続けている。法に基づき国が決める賃金の下限で、参院選では与野党ともアップを訴えている。働く人の懐が温かくなる施策だが、中小企業にとっては、なかなかの重荷。強制的な賃金アップより、中小企業支援を優先すべきだとの声が上がる。

 愛知県産のタマネギ、北海道産の大根、高知県産のピーマン…。名古屋市南区の食品スーパー「生鮮ひろばサンエース新郊通店」には旬の野菜が並ぶ。広さ約三百平方メートルで、駐車場は十五台。大手スーパーの店舗ほどの規模ではないが、車を運転しない近所の高齢者らに重宝される存在だ。

 この店を含む六店を市内で運営するコスギ(名古屋市)の小杉憲一社長(42)は悩みを明かす。

 「売り上げはこの数年、横ばい。人件費を含むコストはかさむ。厳しいです」

 政府は二〇一六年度から毎年、最低賃金を約3%ずつ上げてきた。愛知県の現在の最低賃金は時給八百九十八円。コスギは六店でパート従業員を約五十人雇っているが、毎年給与を見直している。不公平感をなくすため、最低賃金の対象者だけでなく、他の従業員の給与も上げる。

 ライバルとの競争は激しい。大手スーパーやコンビニだけでなく、近年は食品を安く売るドラッグストアが店舗網を広げている。物流業界が人手不足解消のため人件費を上げたこともあり、仕入れ価格も高くなった。ただ、他店との競合から、値上げが難しい商品は多い。

 賃金アップにこだわる政府に対し、経済界の反発は小さくない。

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 日本商工会議所などは五月下旬、政府・与党に対する緊急要望を発表。「数字ありきの引き上げ」に反対した。最低賃金引き上げの直接的な影響を受けた中小企業の割合は一九年、38・4%に上ったと指摘。業績にかかわらず、罰則付きで全企業に適用される最低賃金制度は本来、労働者への保障が目的であるはずで、賃金を上げる政策目的に使うべきでないと訴えた。

 名古屋商工会議所の山本亜土会頭も六月下旬の会見で「賃金は本来、企業の判断で上げるべきもの。政府に合わせざるを得ないのは異常事態」と述べた。

 コンサルタント業の北見式賃金研究所(名古屋市)の北見昌朗所長も「人件費の上昇に伴って体力の弱い企業が消え、強い企業が残る。結果として中小の弱体化や格差拡大につながるのではないか」と指摘する。

 コスギは、高齢者のために、生鮮品を冷蔵車で自宅近くまで運んで売る「移動スーパー」も手掛ける。地域貢献が企業理念。小杉社長は「困る人たちの役に立ちたい」と願っており、政治にも中小企業への心配りを求めている。

 (西山輝一)

 <最低賃金> パートやアルバイトを含めて適用される賃金の下限。下回る額を払った企業には罰金が科される。金額は都道府県ごとに定められる。都道府県によって異なる労働者数を掛け合わせて算出する全国加重平均は2018年度、時給874円だった。同年度の都道府県別はいずれも時給で、最も高い東京が985円、最低は鹿児島の761円。愛知は4位の898円、三重は10位の846円、滋賀は12位の839円、岐阜は15位の825円、長野は17位の821円、福井は25位の803円。

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