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<論戦ファクトチェック>首相の大阪城エレベーター発言 「忠実な復元」こそ認識ミス

2019年7月3日

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 安倍晋三首相がG20大阪サミットの夕食会で、大阪城の復元時にエレベーターを設置したことを「大きなミス」とした発言の波紋が広がっている。そもそも現在の大阪城天守閣はどのような経緯で再建されたのか。首相の発言をファクトチェックすると、首相の発言に「ミス」があった。

 首相は、G20サミットの夕食会のあいさつで「明治維新の混乱で大阪城の大半は焼失したが、天守閣は忠実に復元された」と言及した。これについて、大阪城天守閣の館長を長年務めた歴史家の渡辺武氏は「『忠実に復元』という点がそもそも間違っている」と指摘する。

 現在の大阪城天守閣は一九三一(昭和六)年に大阪市によって復元された。モデルとなったのは、天下統一を目指す豊臣秀吉が一五八五(天正十三)年に築造し、一六一五(慶長二十)年の「大坂夏の陣」で焼失した「豊臣天守」と呼ばれる天守閣だ。

 豊臣天守の図面は残されていないが、天守閣が描かれた屏風(びょうぶ)絵などを基に外観を再現。鉄骨鉄筋コンクリート構造の八階建てで、内部には豊臣秀吉に関する資料などを展示している。渡辺氏は「外観こそ豊臣時代の天守閣に似せているが、中は近代的な歴史博物館として設計された。忠実な復元とは異なる」と話す。

 渡辺氏はエレベーター設置を「大きなミス」と断じた首相の発言も事実誤認だと指摘する。現在の天守閣には二基のエレベーターがあるが、復元時に行けるのは五階までだった。障害がある人や高齢者が八階の展望フロアまで上がるのは難しく、一九九五〜九七年に行った改修工事で二基のうち一基が八階まで行けるようになった。

 渡辺氏は「天守閣へのエレベーター設置は当初、画期的なもので、来場者からは好評だった。それを『ミス』と表現するのは、事実に基づかない乱暴な言い方だ」と批判。野党も「看過できない重大な発言だ」(共産党の小池晃書記局長)と問題視している。

(木谷孝洋)

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