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総合

<『安倍支持』のわけ 長期政権と有権者>(4) 票を見据えタカ派封印

2019年7月1日

公明党の山口那津男代表(右)にあいさつする安倍首相=6月26日午後、国会で

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 愛知県田原市のビニールハウスのミニトマト畑。中国人技能実習生二人が不要な葉をもぐ。経営者の小久保毅(52)は「外国人なしではやっていけない。日本人のパートはなかなか見つからないので」と語る。

 労働力は自身と妻を合わせ四人。約十年前から実習生を雇う。外国人労働者の長期雇用が今より容易になる入管難民法改正を「いいことだ」と歓迎する。

 改正法は昨年十二月に成立した。求めたのは労働力不足に悩む各業界の経営者たち。選挙で自民党が支援を頼む人々でもある。党内保守派からは「日本人の就業機会を奪う」「移民受け入れにつながる」と異論が出た。首相の安倍晋三は日本らしさや伝統を重視する保守派だが、「これは移民政策ではない」と説いた。

 選挙も見据え、理念や理想より、目の前の課題解決を優先する現実主義。それは、選挙で共闘する連立政権のパートナー、公明党への配慮にもにじむ。

 財政再建が叫ばれるなかで打ち出した幼児教育・保育の無償化。参院選で訴える目玉政策で、公明がかねて求めていた。二〇一六年夏の参院選を控えた一五年暮れにも公明の要望をのみ、消費税増税の際に税率を据え置く品目を拡大した。現在の政府・与党では、官房長官の菅義偉、自民党幹事長の二階俊博が公明の理解者とされる。

 中部地方の公明関係者は「安倍さんとは徐々に関係が良くなった」と明かす。

 安全保障関連法が成立した一五年九月ごろまで、自民と公明はぎくしゃくした。同法は、同盟国などが攻撃を受けた際に反撃する集団的自衛権を一定の要件で認める。毅然(きぜん)とした外交を志向し、九条改憲を悲願とするタカ派の安倍は、日米同盟強化を狙った。

 公明は元来、平和重視で、改憲に慎重なハト派。それでも与党として安倍を支え、支持母体の創価学会側には「集団的自衛権行使には歯止めをかけてある」と説明したが、すんなり納得してもらったわけではない。一部の学会員は公然と反対デモに参加した。

 安全保障関連法の成立直後の安倍内閣の支持率は38・9%(共同通信社調べ)。一二年暮れの政権復帰からこれまで、支持率が40%を切った時期は限られる。先の公明関係者は言う。「安倍さんはその後、変わっていった。国民が喜ぶ福祉を重視した方が、政権は安定すると考えてくれるようになったと思う」

 政権復帰以降、国内保守派が望み、隣国が嫌がる靖国神社参拝は一三年暮れの一度きり。日中関係は今、悪くなく、それを重視する経済界は安倍を評価する。

 近づく参院選。安倍は記者会見で「憲法の議論すらしない政党を選ぶのか、国民に考えを示し議論を進める政党なのかを決めていただく選挙だ」と改憲に意欲を示した。一方、共同通信社の最近の世論調査では、安倍政権下の改憲に賛成は35・0%、反対は50・1%。自民党総裁の任期があと二年余となった安倍は、改憲のアクセルを踏むのか。

 公明関係者は「悲願だから、やりたいでしょう」と推しはかり、続けた。「でも内心、『難しいだろうな』と思ってくれているのではないでしょうか」

 (文中敬称略)=おわり

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 この連載は内田康、浅井俊典、吉光慶太、森若奈が担当しました。

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