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<争点チェック>(3)外交 対米優先、振り回される

2019年7月2日

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 「日本が攻撃されたら米国は戦わなくてはならない。米国が攻撃されても日本は戦わなくていい」

 トランプ米大統領は六月二十九日、二十カ国・地域首脳会議(G20サミット)終了後の記者会見で、日米安全保障条約について「不公平だ」と公言した。破棄は否定したものの、「この六カ月、安倍晋三首相にも言ってきた」と明かした。

 このわずか一時間前、首相はサミット閉幕を受けた記者会見で「世界は結束できる、そう信じて議長役を務めた」と胸を張っていた。トランプ氏の発言は、首相と十二回の会談を重ねても、対等な関係に近づけない日米同盟の本質を世界にさらす結果になった。

 安倍政権六年半の外交は軸足を常に日米同盟強化に置いてきた。ちょうど五年前の二〇一四年七月一日には、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使容認を閣議決定。米国を武力で守れるようにした上で、日米防衛協力指針(ガイドライン)を改定し、自衛隊による米軍支援の範囲を世界規模に拡大。これらを法的に裏付ける安全保障関連法を成立させた。

 米国から最新鋭ステルス戦闘機F35や、地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」など高額兵器の購入も決定した。米国が金額や納期を決める「対外有償軍事援助(FMS)」で買うため、米国の「言い値」を受け入れざるを得ず、予算は急増。一九年度はFMSによる購入費用が七千億円強に上り、防衛費五兆二千五百億円とともに過去最多となった。

 米国第一主義を掲げ、対日貿易赤字削減に躍起なトランプ氏は、安倍政権が高額兵器を大量購入しても、なお安全保障というカードをちらつかせ、貿易交渉での譲歩を日本に迫る。

 令和初の国賓として五月に来日した際の日米首脳会談では、貿易交渉妥結は参院選後に先送りされたが、トランプ氏は六月二十八日の大阪での会談でも「貿易、軍事、多くの防衛装備品の購入について話す」と首相を揺さぶった。

 環太平洋連携協定(TPP)にも、首相は当時のオバマ米政権の推進姿勢に合わせ、農業団体などの反発を押し切って参加した。だが、トランプ氏はTPPから離脱。首相ははしごを外された形になった。

 他の重要な外交案件を巡る停滞も目立つ。

 首相は昨年十一月の日ロ首脳会談で、北方四島の一括返還の旗を事実上降ろしたが、プーチン大統領は歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん)両島に米軍が駐留する可能性に言及し、二島引き渡しにも難色を示している。

 首相が最重要課題に位置付ける北朝鮮による日本人拉致問題も進展しない。首相は今年五月、北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と前提条件なしに会談する考えを明らかにしたが、北朝鮮は「ずうずうしい」と反発。実現の道筋は描けない。

 首相が「盤石」と主張するものの実態は米国に揺さぶられる対米関係優先路線の継続か。その見直しか。参院選は日本外交の立ち位置を考える好機でもある。

 (上野実輝彦)

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