<『安倍支持』のわけ 長期政権と有権者>(1) 「民主への幻滅」尾を引く
2019年6月28日
被災地の仮設商店街で買い物をする安倍首相=2015年10月、福島県楢葉町で |
参院選では、どの党に投票しますか。
2011年3月の東日本大震災で事故を起こした東京電力福島第1原発から南へ二十数キロ、福島県広野町のショッピングセンター前で人々に聞いた。広野町在住の無職男性(76)は「自民」と答えながら、「安倍さんは『復興、復興』と口先ばかり」と手厳しい。原発事故の影響で広野町を含む双葉郡には自宅に戻れない人も多く、政権には不満が多々あるという。ではなぜ、自民支持なのか。「野党には何もできないと分かったから」
安倍晋三が首相に返り咲く12年12月までの3年余、政権を担った旧民主党のことだ。民主党政権を生んだ09年の衆院選で、男性も「おごりの見える自民にお灸(きゅう)を」と民主に投票し、地元の福島5区でも民主が勝ったが、政権は期待外れだったという。
震災と原発事故が起き、男性はすぐに母を連れて埼玉県の弟宅に逃れた。震災1カ月後には福島県いわき市に移って避難生活を始めたが、このころ、永田町で勢いを増したのが、「菅おろし」の動きである。
震災対応を指揮する当時の首相・菅直人を引きずり下ろそうとする党内抗争。元代表の小沢一郎らが菅を批判した。男性がいわきで1年余を過ごして広野町に戻ったころ、小沢らのグループは党を出た。
男性は「あっちが悪い、こっちが悪いと(争ってばかりで)あきれた。被災地ではみな、生きるのに必死だったのに」と言う。
政治アナリストの伊藤惇夫が振り返る。「菅おろしの動きは震災前からあった。自民党なら、震災で『休戦』にしたでしょう」。そして続けた。「自民には、党が割れた末に非自民の細川政権誕生を招いた過去がある。それを教訓に、党は割らないという意識が強い。民主党はそこまで、成熟していなかった」
民主党から政権を奪った安倍はその後6年半、首相の座にある。6月中旬に共同通信社が実施した世論調査では、内閣支持率は47・6%。支持する理由で最も多いのは「ほかに適当な人がいない」で48・5%に上る。野党への不信もあり、現政権を消極的によしとする有権者心理が読み取れる。
安倍は6月の党内の会合で「悪夢のような民主党政権」と述べ、野党をあてこすった。2月の党大会でも同じことを語ったが、有権者の記憶を呼び起こせば効果があると思うから繰り返すのだろう。実際に野党は分裂したまま。参院選に向け、各党は32の改選1人区で候補を一本化したが、自民に代わる政権をどうつくるのか、一致した戦略はない。
「安倍さんは口先ばかり」と語った広野町の男性。福島5区選出で、昨年10月まで安倍政権の復興相を務めた吉野正芳が、地元のスポーツ大会にあいさつに来たとき、その思いを直接、ぶつけた。
「口先だけじゃなくて、早くみんなが住めるようにしてくれ」
吉野は「分かっています」とうなずいたという。男性は答えに満足したわけではないが、「大臣の耳に入れられただけマシだろう」と自分に言い聞かせている。
(文中敬称略)
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安倍氏が首相に返り咲いて6年半になる。「森友」「加計」などの問題が発覚しながらも政権は持ちこたえ、内閣支持率は今も50%前後を維持。衆参の選挙でも強さを見せてきた。安倍政権はなぜ、有権者の支持を得てきたのだろう。参院選を前に探った。
(この連載は全4回です)