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総合

<『安倍支持』のわけ 長期政権と有権者>(2) 日銀が支える「投資熱」

2019年6月29日

日経平均株価を示すボード。株式市場の活況が、安倍政権の高支持率につながっているとされる=名古屋市中区の名古屋証券取引所で

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 名古屋市の公務員男性(64)は、二年半前に投資信託を始めた。資金を専門家に託し、株などで運用してもらう。車や楽器演奏など趣味を楽しむ老後を送るため、資金を増やす狙い。投資信託でもうけた知人に勧められたという。株式市場は堅調で、運用成績は悪くない。首相の安倍晋三を「長期政権で経済が安定した」と評価する。

 資産運用を助言する「FP法人シグマ」(同市)の社長吉田篤(36)によると、投資に関心を寄せる中高年が多く、六年前に開業した同社の顧客は年百人ペースで増えている。安倍の経済政策「アベノミクス」による低金利で、預金に利子がほとんどつかないことが、投資熱の背景にある。

 安倍が首相に返り咲いた二〇一二年十二月、日経平均株価は一万円前後だった。一八年十月二日には終値が二万四二七〇円六二銭となり、バブル崩壊後最高値を更新した。企業業績の回復と株価上昇は、安倍政権の支持率維持に貢献しているとされる。

 エコノミストで名古屋学院大教授の江口忍(54)によると、安倍の政権復帰後、日本株を大量買いしたのは海外の投資家たちだ。一三年春に日銀総裁に就任した黒田東彦(はるひこ)が打ち出した大規模金融緩和(通称・黒田バズーカ)を好感。流通する円がだぶつき、円安が進んで輸出企業が潤うと踏んだ。実際に株価は上がり、海外勢はもうけを確定させるため、わずか一年程度で売り抜けた。

 これに代わるように、株を買い進めたのが日銀自身だ。金融緩和のため、大量の国債に加えて、市場で売買される上場投資信託(ETF)の購入額を増やした。一三年は一兆円だった年間購入額は一四年に三兆円、一六年以降は毎年六兆円に増えた。今や日銀は、ユニクロ運営会社など三十社余の株の10%以上を実質的に所有している。

 江口は言う。「午前に株価が下がれば、午後に日銀がETFを買い、市場を支える。株価を維持したい政権の意向を忖度(そんたく)しているようにも見える」。中央銀行が大量の株を購入するのは、主要国では異例という。

 安倍政権が唱える「貯蓄から投資へ」。国民年金や厚生年金の積立金を運用する独立行政法人は一四年、リスクの少ない国債中心の運用を改め、価格変動の大きい株式運用比率を増やした。最近は、夫婦で老後に二千万円必要とした金融庁の審議会の報告書が、年金不安を招くと議論を呼んだが、そもそも報告書の趣旨は、不足分を投資などで補いましょうと訴えることだった。

 安倍政権の六年半。国民の将来は、リスクの高い市場に、より委ねられるようになった。

 江口は「日銀は、買った株をどうするつもりなのか」と心配している。いずれは売らなくてはいけないはずだが、売れば株価全体の下げ要因になる。売るに売れないのではないか。

 今後も買い続けたら、リスクは増す。「中央銀行が株で大損」なんて、聞いたことがない。円は信用を失って暴落し、日銀の損を税金で補う事態にならないだろうか。

 杞憂(きゆう)だと言われるかもしれないが、そんなシナリオもありうると授業で学生に教えている。

 (敬称略)

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