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静岡

候補の密着記者 今だから書ける話

2019年7月23日

 参院選は十七日間の選挙戦を終え、静岡選挙区(改選数二)ではともに現職の牧野京夫さん(自民)と榛葉賀津也さん(国民)がそれぞれ三選と四選を果たした。四党の候補に密着した記者がみた勝因、敗因、今だから書ける話を記す。

◆分厚い支持 盤石の戦い

自民・牧野京夫さん

街頭演説で支持を訴える牧野京夫さん=静岡市葵区で

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 代表や幹事長級が何度も来県した他党と比し、牧野さんの応援は、石破茂元幹事長や額賀福志郎元財務相ら所属する「平成研究会」中心だった。県連や公明、農協をはじめ強固な支持基盤があり、それだけ盤石の戦いだった。

 四月に二度目の国土交通副大臣に任命され、本人は「選挙準備が中断した」と話したが、現職の副大臣という立場はもちろんプラスに働いた。

 梅雨前線の影響で選挙期間中は雨がちだった。災害対応の責任者を務めた二〇一八年七月の西日本豪雨に触れ、「『コンクリートから人へ』は自然災害に対して無力だ」と民主政権の批判材料とした。改憲や消費増税への言及は最後までほぼなかった。

 二階派入りした細野豪志元環境相が応援演説に訪れるとの情報も何度かあったが、地元の反発などもあり、結局、目立った動きはなかった。

(三宅千智)

◆綿密な戦略「参謀の差」

国民・榛葉賀津也さん

ファイティングポーズを取る榛葉賀津也さん=静岡市葵区で

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 四選を決めた翌二十二日早朝。作業着姿で現れ、自宅で飼っている三頭のヤギに餌を与えた。国会中も欠かさない日課。選挙中はできなかったが、ようやく日常が戻ってきた。

 日課同様、戦い方もぶれなかった。街頭では一貫して経済政策を訴えた。当初、時間を割いたアベノミクスや年金問題など政権批判を徐々に弱め、他候補、特に徳川さんとの違いの強調にシフトした。当選に向け綿密な戦略を練ったのは熟練の政策秘書ら。「参謀の差が出た」と榛葉さん。

 戦略を実行に移せる組織力が勝因だった。組合員二十万人の連合静岡が、遊説はじめ活動全般を支えた。結果は前回選に近い四十四万票を獲得し、ライバル視した徳川さんとは十四万票の差。全国的には、党は立民に水をあけられた。自民からは改憲勢力に取り込もうと虎視眈々(たんたん)と狙われる立場だ。

(岸友里)

◆現職陣営団結に負けた

立民・徳川家広さん

街頭演説に駆け付けた父徳川恒孝さん(中)、母幸子さん(左)と握手する徳川家広さん=静岡市葵区で

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 出遅れながら、善戦したと言えるだろう。現職二人に危機感は持たせた。

 徳川宗家直系という抜群の知名度に加え、慶応大卒、米ミシガン大院で経済学、米コロンビア大院で政治学を修了というずばぬけた学歴、政治経済評論家として培った演説のうまさも備えていた。一方で、ひたすら握手を交わす姿は印象的だった。

 現職二人の快勝は「両陣営が危機感から団結したからだ」(徳川さん陣営幹部)との指摘もうなずける。

 そんな「大物新人」をもってしても、党基盤の脆弱(ぜいじゃく)さは隠せなかった。議員OBが「ないに等しい」と揶揄(やゆ)するほど、県連の存在感は希薄だった。

 立候補の表明が遅れたのも、県連の準備不足。次期総選挙がいつあるか分からないが、党勢を議席の獲得に結びつけたいのならば、県連内の意識改革は必須だ。

(広田和也)

◆「唯一の女性」も響かず

共産・鈴木千佳さん

手を振って有権者に呼び掛ける鈴木千佳さん=菊川市で

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 鈴木さんの得票数は二〇一六年参院選の出馬時から四万票近く減らした。年金問題やジェンダー平等、全国一律の最低賃金などを主に訴えたが、党支持層の枠を超えた広がりはなかった。「唯一の女性候補」のアピールも響かなかった。

 党県委幹部は、徳川さんと浜岡原発の廃炉や改憲反対など「多くの政策が重なっていた」として、時間的な余裕があれば共闘の余地もあったと振り返る。当の徳川さんは支援者らとの集会で公然と「現実にそぐわない」など共産主義、党批判をしていた。共闘はあり得なかっただろう。

 そもそも、比例代表での議席獲得を軸に戦う共産にとって、本音では、選挙区での勝利は二の次だったに違いない。志位和夫委員長や小池晃書記局長らは来県したものの、応援演説でとりわけ強調したのは、比例代表での現有五議席の維持だった。

(瀬田貴嗣)

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