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静岡

ロスジェネ 各党どう支援

2019年7月20日

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 バブル経済崩壊後の景気低迷期に社会へ出た「ロスト・ジェネレーション」。立場が不安定な非正規雇用から抜け出せず、いまだに不遇にあえぐ人もいる。「人生再設計第一世代」との呼び名まで生まれ、急に支援策がとりざたされるようになったロスジェネは、参院選で何を思うのか。

 浜松市東区の職業訓練施設「県立浜松技術専門校」の実習室。電気工事士の国家資格を目指す男性(42)=県西部在住=が、壁に電気配線を張り巡らせていた。「人生をあきらめかけていた」。額に汗を浮かべる男性はこれまで、非正規の職場を転々としてきた。

 関西の公立大農学部を卒業した二〇〇〇年、有効求人倍率は〇・六倍を切っていた。知識を生かすには、待遇が悪い職場しか見つからなかった。農業指導の正規職員で、月収は十六万五千円。それでも四年間、懸命に働いた。

 しかし、父が病死し、家族の借金を返済するため、高い給料の仕事に転職しなければならなくなった。不景気は続き、就職で重宝される新卒でもない。バイクの部品工場の派遣社員になって夜通し十二時間働き、手取りは月三十万円を超えた。でも、「キャリアにならない」とまた転職。正社員として四年間、トラック運転手をしたが、厳しい労働環境でうつ病になった。その後は、日雇いや派遣で食いつないできた。

職業訓練で、配線の取り付け作業などを行う電気工事科の訓練生(中央)=浜松市東区の県立浜松技術専門校で

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 景気回復や少子高齢化による人手不足で、有効求人倍率は今や一・六倍に達する。ただ、働き手の37%を占めるまでになった非正規雇用が目立つのが実態だ。

 その非正規の拡大にも直面してきたロスジェネは、男性のように日本の「終身雇用」のレールから外れ、苦労してきた人が多い。政府の経済財政諮問会議は今春、ロスジェネを「人生再設計第一世代」と位置付け、支援を提案。政府は正規雇用者を三十万人増やす目標を打ち出した。

 インターネット上では「上から目線で何を今さら」と批判が巻き起こる一方、「氷河期世代はのたれ死ね」とお荷物扱いする罵詈(ばり)雑言も飛び交った。「その世代に生まれただけなのに…」。男性は再び正社員として働きたいとの思いが募り、手に職をつけられる職業訓練校に入った。

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 今は少ない雇用保険と貯金を切り崩して暮らす。家族を持つ気はない。むしろ「守るべき家族がいないのが救い」と感じている。年金を巡る老後資金の「二千万円不足問題」を聞いても、実感は湧かなかった。

 政治や企業から「もっと早い段階で支援があれば」と思ったこともあった。今はもう期待していない。「自分で切り開くしかない」。本気でそう思っている。

◆東大大学院・本田教授に聞く

 ロスジェネは、どんな状況に置かれてきたのか。東京大大学院の本田由紀教授(教育社会学)に聞いた。

 −就職が厳しい時代だった。

 バブル後に景気が低迷していたころは、人口の多い団塊世代が人件費の高い地位にいた。企業に余裕はなく、終身雇用制度のもとで年長者を優先して守り、新卒者の採用を絞り込んだ。

 −これまで支援はなかった。

 世の中は逆に「甘えている」「やる気がない」とあおり、ロスジェネ側の自己責任だとした。その結果、企業の採用のあり方や支援策に議論は至らず、問題の放置につながった。

 −転職してもうまくいっていない人は多いのか。

 なんとか正社員になっても希望の仕事に就けず、スキルを発揮しにくい傾向がある。本来なら働き盛りの世代で、経済や技術革新の停滞にもつながっている。

 −社会的な損失でもあると。

 ロスジェネに含まれる団塊ジュニア世代ではベビーブームが起きず、少子化が進んだ。家庭を持つ余裕がなかったことも一因となったと考えられる。高齢化して生活保護の受給が増えれば財政を圧迫するだろう。政府の責任は大きい。減らしすぎた公務員にロスジェネを採用をするぐらいの措置があってしかるべきだ。

(坂本圭佑)

 <ロスト・ジェネレーション> バブル崩壊後の景気悪化で、企業の新卒採用が減った1993年から2004年ごろに高校や大学を卒業し、社会に出た世代。就職氷河期世代とも呼ばれる。現在の33〜48歳にあたり、人口規模は約2000万人とされる。99年の法改正で派遣社員の対象業務が原則自由化され、04年には製造業への派遣も解禁されるなど、就職は非正規雇用の拡大時期にも重なる。

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