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静岡

迫る「10%」戦々恐々

2019年7月18日

◆増税 根強い負担感

チラシを見て、やりくりを考える子育て中の女性。「大きな買い物なんて、とても…」と話す=浜松市内で

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 安倍政権が、これまで先延ばしにしてきた消費税の10%への引き上げを掲げて参院選に臨んでいる。少子高齢化で膨らむ社会保障費をまかなうために必要−。有権者には理解する声もあるが、暮らしを直撃する増税への抵抗感は根強い。一方、売り手側は景気の冷え込みを心配する。

 パソコンとプリンター、合わせて五万円。家電量販店で値札を確認した女性(46)=浜松市北区=は「早く買わなきゃ」と思いつつも、そのまま店を出た。

 高校三年の長男と中学三年の双子の計三人がそろって受験を迎える。今どきの入試は、パソコンを使った出願手続きが必要だ。「増税前に」と気持ちは焦るが、会社員の夫にボーナスはなく、踏ん切りがつかない。雑貨店のパート収入で補っても家計は苦しく、増税を思うと悩みは増えるばかりだ。「春には入学金の納付があるし、ショッピングなんてできなくなる」

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 公益財団法人「中部圏社会経済研究所」の試算では、消費税が10%になると、静岡県内の平均的な家庭は年約三万三千円負担増になる。収入が多いほど税率が高くなる所得税と違い、一律に徴収される消費税は、所得が少ない世帯の方が負担感が大きいとされる。

 与党はそれでも引き上げを目指す理由について、膨らむ社会保障費に対応するためと説明する。増税分は、低所得の高齢者の支援や、幼児・高等教育の無償化といった少子化対策に用いるほか、国の「借金」を減らすために使う見込みだ。

 「財源がないなら、仕方ないのでは」。スーパーで買い物をしていた主婦(63)=同市中区=は増税に賛同しつつ「老後の暮らしや子どもたちの将来のために有効に使ってもらいたい」と注文をつける。

 消費税増税以外の財源確保を求める声もある。年金暮らしで、今後の医療費や介護費への不安がある梶井恵治さん(74)=同市東区=は訴える。「増税になったら赤字になりそう。でも、貯蓄を取り崩すのは…。大企業の法人税を上げるなど、個人への負担を強いる前に、ほかの手だてを考えてほしい」

 参院選静岡選挙区の本紙世論調査では、消費税率の引き上げに賛成なのは全体の37・1%、反対が51・3%だった。

◆軽減税率 分かりにくい

茶葉は8%に据え置き、ポットは10%に増税…。まるい園茶舗の鈴木勝彦社長は「店にも客にも分かりづらい」と嘆く=浜松市中区で

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 「景気は良いと言われているが、末端の商店に実感はない。増税の影響はどれくらいあるのか…」

 JR浜松駅南の砂山銀座サザンクロス商店街で一九二〇(大正9)年から続く日本茶店「まるい園茶舗」。三代目の鈴木勝彦社長(52)は、消費税増税による景気の冷え込みを心配する。

 8%に上がった二〇一四年は、贈答用で購入量を減らしたり、ランクを落としたりする動きがあり、売り上げに響いた。今回は、食料品など生活必需品は税率を8%に据え置く「軽減税率」が導入され、茶葉も含まれる。ただ、急須や湯飲みなどは対象外だ。

 軽減税率は「店にも客にも分かりづらい制度」という別の懸念も生んでいる。別詰めの缶は10%に上がる見込みだが、茶葉と缶の贈答用セットの値札はどうするか。鈴木さんは「いっそのことすべて10%にしてくれないか」と苦笑いする。

 郊外の大型店に押され、サザンクロスはシャッターが下りた店が目立つ。買い控えで商店街を訪れる人がまた減れば、死活問題だ。「政治家はまちの現場をしっかり見てほしい」。鈴木さんは願っている。

(鈴木凜平、古根村進然、鈴木啓紀)

主な政党の公約

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