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静岡

望むのは普通の暮らし 生活保護頼りに職探し

2019年7月11日

サポートステーションで就職の相談をする少年。その後、正社員での採用が決まった=掛川市で

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 戦後最長とされる好景気の足元で、格差が広がっている。困窮が目立つのは、ひとり親の家庭だ。生まれた環境に左右されず、努力すれば報われる世の中になってほしい。当事者から切実な声があがるが、参院選で各党が掲げる公約は、必ずしも具体的とは言えず、費用や財源も明確に示されていない。貧困層の訴えは、政治に届くのか−。

◆母子家庭で育った少年

 「働いて働いて、いつか家庭を持つことができたら…」。母子家庭で育った少年(19)=県西部在住=の小さくて、大きな願いが今月、一歩前進した。春から始めた就職活動が六社目で実を結び、塗装会社の正社員として働くことが決まった。「普通の家庭に生まれたかったな」。何度も頭をよぎったそんな言葉とも、さよならできるかもしれない。

 五人きょうだいの末っ子。小学三年のころ、母(58)は、ギャンブルに明け暮れた父と離婚。母と少年、姉二人の四人暮らしが始まった。父が二年後に病死して養育費が途絶えると、厳しい生活はさらに傾いていった。

 すさんでしまった母は働かず、頼りは中卒でアルバイトする姉二人のわずかな稼ぎ。遊園地に行きたい。誕生日プレゼントがほしい。母にねだるたびに「お金がない」と言われ、あきらめることが普通になった。

 高校進学もそうだ。奨学金を申請しようとしたが、保証人が見つからなかった。就職しようにも学校では、十分に相談に乗ってもらえなかった。中学卒業後は家に引きこもり、テレビやゲームで現実から目を背けた。

 姉たちは今年一月、耐えきれずに家を飛び出した。実は生活費が足りずに工面した借金が四百万円もあることを知った。年の近い姉はどこにいるのかさえ分からない。二月にはガスと電気も止まり、寒さに震えた。限界を迎えた四月、生活保護を申請した自治体の職員から働くよう諭され、「これまでは甘えていた」と感じたという。

 月九万九千円の生活保護に頼りながらの職探し。企業に履歴書を送っても書類ではねられる時期が続き、「学歴がないからかな」と落ち込んだ。「地域若者サポートステーションかけがわ」(掛川市)の支援も受け、やっと初めての就職先が決まった。

 「がむしゃらに頑張る」。そう思う一方、新しい生活への不安もある。今のアパートにテレビはなく、正直、政治や選挙に関心を持つ余裕すらなかった。でも、少しだけ望んで良いのなら−。「裕福じゃなくてもいい。頑張れば、普通に暮らせる世の中であってほしい」

◆世代超え連鎖する貧困

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 母子家庭で育った少年は「甘えがあった」と反省を口にしたが、それは「甘え」だったのか。世界三位の国内総生産(GDP)を誇る日本だが、貧困率は先進国の中でも高い水準にあり、同じ境遇の少年少女たちが大勢いる。貧困は世代を超えて連鎖するとも言われ、専門家は「政治の力で断ち切る必要がある」と訴える。

 厚生労働省の二〇一六年の調査によると、一般世帯の半分未満の収入で暮らす世帯の割合を示す「相対的貧困率」は15・7%。経済協力開発機構(OECD)加盟の先進国三十五カ国中、七番目の高さだった。ひとり親世帯では50・8%と極めて高い。

 貧困家庭の場合、子どもが十分な教育を受けられず、進学や就職で不利になり、安定した職に就けない恐れがある。

 厚労省の別の調査では、生活保護受給世帯の子の大学や専門学校の進学率は35・3%で、全世帯の半分に満たない。

 静岡県立大教授で、就労支援のサポートステーションを県内各地で運営するNPO法人「青少年就労支援ネットワーク静岡」(静岡市)の津富宏理事長は「貧困の連鎖を断ち切るためには、就労支援に加え、奨学金による教育環境の改善や生活保護の増額などの対策が不可欠」と指摘する。

(坂本圭佑)

 <地域若者サポートステーション> 厚生労働省がNPO法人などに委託して開設する就労支援拠点。働くことに悩みを抱える15〜39歳の若者に対し、キャリアコンサルタントなどによる専門的な相談やコミュニケーション訓練、就労体験などにより、就労に向けた支援を行う。厚労省のホームページによれば、全都道府県に計175カ所ある。

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