民間企業で働く障害者が増える中、同じ職場で働き続けられる環境づくりなどが課題となっている。参院選では各党がさらなる雇用の促進を公約に掲げるが、現場からは具体性に乏しいという声もある。二十年以上にわたって障害者を雇い、今では従業員の四分の一を占める浜松市南区の農業法人・京丸園を訪ね、一緒に働くヒントを探った。

　四日朝、軽度の知的障害がある従業員の中村高博さん（３４）が、ビニールハウスでチンゲンサイを収穫し、台車に積んでいた。「収穫して、運ぶ」と繰り返しつぶやきながら、約五十メートル離れた小屋まで何度も往復した。鈴木厚志社長は「根気強い彼にはぴったりの仕事だ。よくやってくれている」と目を細める。

　従業員百人のうち二十五人が障害者。能力や適性に応じて作業を細分化し、栽培のすべての工程をこなす。障害者がいなければ会社が成り立たない。

　昨年八月、障害者との共生をうたう国の省庁で、雇用率の水増し問題が発覚。静岡県など全国の自治体にも飛び火した。雇用率を下回った機関は不足分の緊急雇用を行い、今年六月には雇用率への不適切な計上があった場合、国が勧告できるよう法改正も実施された。

　雇用の「数字」を重視する姿勢に、鈴木社長は「急いで雇えばいいというものではない」と指摘する。本当に障害者雇用の意味を理解しているのか、疑問だという。

　京丸園が障害者を雇い始めたのは一九九七年。トレーの洗浄を指示すると、同じトレーを何時間も洗い続けたり、野菜の水やりができなかったり、「戸惑いもあった」と振り返る。

　しかし、トレーを洗いやすくする機械の開発や、「茎から何センチのところに何ミリリットル」といった指示の具体化など、職場環境を改善することで全体の生産性が大きく向上。障害者を雇用する前と比べ、従業員の数も売り上げも六倍以上に伸びた。退職者はほとんどいない。「ここまで二十年かかったが、障害者が安心して働けるようにすることで、誰でも働ける職場になる。雇うのは、決して『数字』のためじゃない」

　参院選では各党、各候補が障害者雇用の拡大を訴えるが、大きな争点にはなっておらず、具体的な公約も乏しいようにみえる。「本気で取り組もうとしているのか。付け焼き刃じゃだめだ」。当選のためではなく、障害者のために働いてくれそうな候補に一票を投じるつもりだ。

　厚生労働省によると、障害者の平均勤続年数は身体が約十年、知的が約七年半、精神が約三年にとどまる。長く働いてもらうためにはどうすればいいか。製造業が盛んな県西部の企業も模索を続ける。

　ヤマハ発動機は半世紀近く全国で聴覚障害者を雇ってきたが、県外出身者は親元へ帰るなどの理由で離職が多かったという。二〇一五年に設立した特例子会社ヤマハモーターＭＩＲＡＩは、近くの特別支援学校などから年間六十件の職場実習を受け入れ、知的障害者らの地元採用に取り組む。

　一方、精神障害者は体調の波が大きい。一七年に自動車部品メーカーのソミック石川が設立した特例子会社ソミックワンでは、精神障害のある従業員に対して二週間ごとに面談を実施している。職場の温度、におい、人前での注意など、本人のモチベーションを左右することは何かを把握し、改善につなげている。

　両社とも離職はほとんどないという。ＭＩＲＡＩの高橋愛社長は「定年まで働いてもらうことが前提」、ソミックワンの八木賢二社長は「家族から働かせたいと思ってもらえる職場づくりを進めたい」と話した。

（鈴木凜平）