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静岡

畜産業者 米との貿易交渉、不安

2019年7月8日

牛舎で牛の世話をする遠山将映さん=掛川市大池で

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◆トランプ氏つぶやき 「密約」疑念拭えず

 外国産の牛肉がどんどん国内に入ってきてしまうのではないか−。日本に市場開放を迫るトランプ米大統領が五月、日本の畜産業に不利になるような「密約」をにおわせた。静岡県内で牛を育てる業者は、不安を抱えたまま参院選を見守る。

 昼前の牛舎で、ツヤツヤとした黒毛の和牛がわらや穀物をはむ。掛川市内で百二十頭を世話する遠山将映(まさてる)さん(47)のこだわりは、赤肉と霜降りのバランスが取れた牛に育てあげることだ。「地元に愛され、輸入ものに対抗できるようにしたい」。しかし、五月下旬、そんな誇りと自信が揺らぐようなニュースが飛び込んできた。

 「貿易交渉で大きな進展があった。農産物と牛肉が中心だ。七月の選挙(参院選)後を待つ。大きな数字を期待している!」

 トランプ氏は安倍晋三首相と訪れたゴルフ場での昼食後、そうツイッターで発信。米国が関税引き下げを熱望する農畜産分野で日本が譲歩したのでは−。そんな「密約」の存在が取り沙汰された。

 政府は全面的に否定したが、遠山さんは「もし牛肉の関税が引き下げられ、消費者が安い輸入肉に流れてしまったら…」と疑念が拭い切れない。

 関税の引き下げを巡ってはこれまでにも、オーストラリアなどと結ぶ環太平洋連携協定(TPP)や欧州連合との経済連携協定(EPA)が昨年末以降、相次いで発効。米国以外でも影響が懸念されている。県の試算では、八十二億円ある牛肉の県内産出額は、TPPとEPAにより将来、一割減るとされる。

 もともと遠山さんの牛舎の経営は楽ではない。近年は子牛の仕入れ価格や餌代が高くなっており、出荷できる大きさに育てるまでに一頭あたり平均百十万円のコストがかかる。採算は現時点でぎりぎり。家族経営でなんとか乗り切っている。

 米国との貿易交渉はこれからが正念場だ。そもそも米国が貿易交渉に乗り出したのは、TPP離脱で自国の農畜産物の対日輸出がオーストラリアなどライバルに比べて不利になり、シェアが低下しているため。政府は、米国に対する牛肉や豚肉などの農畜産物の関税をTPP並みに引き下げる場合、日本が米国へ輸出する自動車など工業製品もTPPと同水準の関税撤廃を求める構えを見せる。

 「米国が対日赤字で問題視しているのは自動車だ。こっちを犠牲にするなと言いたい」。農畜産物の取扱高が県内最大規模のJAとぴあ浜松の鈴木和俊会長は、不満をあらわにし、注文をつける。

 「国は『食料自給率を上げよ』と言う割に、やることが違う。日本の農業を守ってほしい」

 <環太平洋連携協定(TPP)> 日本、カナダ、ニュージーランドなど11カ国で構成し、2018年12月30日に発効した。加盟国から輸入する農畜産物の関税を段階的に引き下げたり、即時撤廃したりする。牛肉の場合は38・5%の関税を16年目には9%まで下げる。米国はトランプ大統領当選後の17年に交渉から離脱した。

(飯田樹与)

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