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静岡

9条改憲に期待と葛藤 県内自衛官や家族

2019年7月6日

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 安倍晋三首相は参院選の争点に「改憲」を強く打ち出した。戦力の不保持をうたう憲法九条に、自衛隊の存在を明記したいという。自衛隊内部の関係者はどう思うのか。県内の男性自衛官や自衛官の家族が胸中を打ち明けた。

 満足に用すら足せないのか−。トイレに入るたび嘆息した。数年前まで入っていた独身寮の共用トイレの話だ。トイレットペーパーは備品ではなく、私物。ホルダーに紙は無いから、自腹で買って自室から毎回、持ち込む。手持ちを切らし、後輩に借りたこともある。

 徹底的に「むだ」を削る自衛隊。自衛官は低い声で「私たちは国民から厳しい目で見られているから」と話す。「自衛隊が憲法に規定されておらず、違憲論が根強くあるからだ」

 幼い頃、よく父に連れられ、自衛隊のイベントに行った。体格の良い隊員を見て「かっこいい」とあこがれ、高校卒業後に入隊した。

 近年、被災地の救援で活躍する自衛隊。二〇一一年の東日本大震災などで人命救助や給水支援に尽力する姿は国民に感謝されてきた。この自衛官も被災地で活動経験があり「必要とされていることがうれしかった」と話す。ただ、こうも言う。「本来の任務は国防。つまり日本を守ることだ」

 先月、原油の重要な輸送ルートである中東のホルムズ海峡付近で日本のタンカーが攻撃された際、「将来的に出番があるかも」と緊張したが、部隊内では話題にならなかった。「有事の際にどうするかという議論はしづらいが、あまりに緊張感がなかった」と言う。

航空自衛隊浜松基地の守衛業務をこなす自衛官=浜松市西区で(本文とは直接関係ありません)

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 あこがれた「かっこ良さ」と、トイレの紙がないだけでなく、国防の気概もないようにみえる「かっこ悪い」現実。そのギャップが「さみしい」。

 それだけに「憲法に明記されれば当事者意識が生まれるし、国防を担う自衛隊の存在を国内外にアピールできるはずだ」。溝を埋めてくれるかもしれない改憲への期待は、大きい。

 一方、航空自衛隊浜松基地(浜松市西区)に勤務する子どもを持つある父親は「改憲には賛成だが…」と言葉を濁す。自衛隊明記には賛同するが、安倍首相のやり方にもろ手を挙げることはできないという。

 自衛隊の海外での活動は湾岸戦争後の一九九一年から徐々に範囲が広げられてきた。二〇一四年の集団的自衛権の行使容認で、世界中で米軍を後方支援できるようになった。

 どこまでが自衛権の対象になるかあいまいなまま改憲が進めば、今度は「自衛権の拡大解釈」につながる懸念がぬぐえない。「わが子を戦地に送るのは抵抗感が強い。心配がないと言えばうそになる。今の憲法や日米安保のおかげで、少しは安心できているし」

 トイレットペーパーの自腹問題で、防衛省に改善を約束させたのは国会、つまり政治の力だった。参院選を通じて、改憲や自衛隊のことをもう少し考えてみようと思っている。

(参院選取材班)

 <憲法9条> 日本国憲法の三大原則の一つである「平和主義」を規定。1項で戦争放棄、2項で戦力不保持と交戦権の否認を定める。安倍晋三首相は2017年5月、9条への自衛隊明記を提起した。自民党は18年3月、4項目の改憲案を明示。9条は1、2項をそのまま残し、新たに「自衛隊の保持」を加えるとした。参院選では、自民などの「改憲勢力」が、改憲の国会発議に必要な3分の2議席を維持できるかどうかが焦点になっている。

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