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静岡

消費税率引き上げ 識者に聞く

2019年7月5日

 四日公示された参院選では、二度にわたって延期された消費税率の10%への引き上げを、予定通り十月に行うべきかどうかが争点の一つだ。景気動向に詳しい静岡経済研究所の大石人士専務理事(62)と、生活者の視点で活動する県消費者団体連盟の小林昭子会長(76)に、このタイミングでの消費税増税の是非や政府の対策への見解を聞いた。

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◆時機悪いが上げるべき

静岡経済研究所 大石人士専務理事

 おおいし・ひとし 藤枝市出身。専修大経済学部卒。1979年静岡銀行入行。本店営業部などを経て82年静岡経済研究所出向。研究課長、研究部長、理事、常務理事などを歴任し、6月から現職。専門は地域経済や景気動向。

 −足元の景気をどう見ているか。

 一〜三月期の国内総生産(GDP)はプラスだったが、消費や設備投資といった内需はマイナスだった。輸出の減少を輸入減が上回った外需がプラスに貢献したが、あくまでも数字のマジックだ。実態はなかなか厳しく、昨秋ごろから経済指標以上に景気の実感には疑問符が付いている。

 −企業業績の動向は。

 二〇一九年三月期は良かった。収益の多くを海外で稼ぎ、県内を含め上場企業は過去最高益を出した会社も多い。ただ、昨秋ごろからの米中貿易摩擦で中国への輸出、中国での生産に陰りが見えることを加味すると、全体的には厳しいのかなと思う。

 県内の企業では、中国の設備投資の減速で工作機械に影響が出ている。通期では良かったが、米国が中国からの輸入品に追加関税をかけるなど貿易摩擦が激化しており、影響が広がっている可能性がある。

 −消費者の節約志向は解消されたのか−。

 消費の現場に聞く県版景気ウオッチャー調査では、四・四半期連続で現状判断が「悪化」となった。節約志向は定着しており、消費は盛り上がっていない。ある程度の賃上げが行われ、所得環境は良くなっているが、非正規労働者を含めた全体で考えるとパイは縮小している。むしろ、増税や先行きが見えない不安で節約志向は強まっている。

 −十月から予定通り消費税率を引き上げるべきか。

 いずれは避けて通れないことなので、基本的には上げるべきだ。先送りしても今より状況が好転するとは思えない。ただ、現在はタイミングが悪いのも事実。過去二回延期した時より環境は良くない。米中貿易摩擦が本格化し、リーマン・ショック級に悪化する可能性もある。結果的には、前回延期した時期にやっておけば良かった。リーマン級の事態になれば増税してはいけない。数字を細かく見て慎重に判断してほしい。

 −増税する場合に配慮すべきことは。

 (全ての人に等しく課税する)消費税の増税は低所得層が最も打撃を受けるため、低所得者の減税といった対策が必要だ。政府はポイント還元などを打ち出しているが、期限付きの措置なので、終了後は消費の落ち込みが懸念される。

 増税する代わりに、将来の社会保障に心配がないといったメッセージを出すなど、国民の将来不安を取り除くことが大事。親の介護を抱える現役世代や、老老介護に直面する高齢者の負担を軽減する制度をつくっていく必要がある。

(聞き手・伊東浩一)

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◆先に国会議員の削減を

県消費者団体連盟 小林昭子会長

 こばやし・あきこ 北海道出身。高校卒業後に道庁で11年勤務し、結婚を機に旧芝川町(現富士宮市)に移住した。25年ほど前から地元の消費者クラブで食の安全や環境問題に関する講話を続ける。2006年から現職。

 −消費税率引き上げで暮らしはどう変わるか。

 間違いなく消費は落ち込む。家計が苦しくなった時に操作しやすいとされるのが食費と嗜好(しこう)品だが、食費を安易に切り詰めるのは望ましくない。育ち盛りの子どもがいる家庭では、値が張らなくても栄養が取れる食品を買うことが大事だ。

 −消費者が意識すべきことは。

 増税前の駆け込み商戦や還元セールが激しくなるだろうが、クールに考えることが大事。税率が8%に上がった時に加工食品を大量購入して余り、周りに配った人もいる。家電の買い替えも、持っている物が今後どれだけ使えるかをまず吟味してほしい。

 −キャッシュレス決済のポイント還元は妥当か。

 現金主義の高齢者は戸惑う。口座引き落としやクレジットカード払いは利用額や残高が分かりにくい。電子マネーは他人が自由に使えるため、犯罪被害に遭いかねない怖さがある。

 中小の店が補助金で設備投資をしても、主な利用者である高齢者はそれほど使わないかもしれない。しかも来年六月までの期間限定だ。低所得や子育て世帯向けのプレミアム付き商品券も期限付きで、消費者にとっては一時的な「あめ玉」にすぎず、場合によっては無駄遣いを助長する。

 −高齢者は老後の不安もある。

 持ち家でも固定資産税や住民税は払わないといけないので、増税はこたえる。基礎年金だけの人は到底生活できない状態だ。だから国は、二〇一四年に少額投資非課税制度(NISA)を設けて高齢者に投資を促してきた。「公的年金だけでは二千万円不足する」とした金融庁の審議会の報告書が議論を呼んだが、「貯蓄から投資へ」は今に始まったことではない。

 その報告書を参院選前に「求めたものと違う」と政権が突き返すのは、考えられないこと。私も県関係の審議会に出ているが、発言一つ一つを注意して臨んでいる。川勝平太知事が同じことをしたら怒る。

 −政治に求めるものは。

 増税による財政健全化の必要性は多くの人が理解していると思うが、国会議員の定数や歳費の削減が先。増税分の使い道も、福祉か教育か防衛か、本当のところが見えにくい。きちんと伝えないと国民は不信感を抱き、結果的に消費も冷え込む。

 無年金者から普通に暮らせるだけ年金を受け取る人まで、全員の人生がかかっている。参院選では、調和をうたう令和の時代にふさわしい社会づくりを語ってほしい。

(聞き手・久下悠一郎)

 <消費税率引き上げ> 幅広い商品やサービスにかかる消費税を現在の8%から10%に引き上げる。10月に実施予定。税収の増加分は社会保障費や幼児教育の無償化などに充てられる。増税に伴う負担の軽減策として、外食や酒類を除く飲食料品と定期購読の新聞は税率を8%に据え置く軽減税率を適用する。消費低迷を防ぐ景気対策として10月から9カ月間、クレジットカードやスマートフォンのQRコード決済などで現金を使わずに買い物をすると、中小店舗で代金の5%、コンビニでは2%をポイントとして還元する。

主な政党の公約

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