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静岡

月10万円 年金頼れず「老後の楽しみない」

2019年7月4日

◆浜松の夫婦 病気で暗転

年金の振込通知書を手に、苦しい暮らしぶりを話す岸本久俊さん=浜松市中区で(一部画像処理)

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 老後の暮らしをどう守るか。金融庁の報告書を機に、参院選では年金を巡る課題が大きな争点に浮上した。「夫婦で二千万円の蓄えが必要」という試算は、あくまで平均値。実際にはそれぞれが、それぞれの事情を抱える。例えば、病気で働けなくなり、パートナーも寝たきりになったら−。

 腰痛を抑える湿布が机に置かれ、布団が敷かれたままになっていた。浜松市中区にある築三十五年ほどの賃貸マンションの一室。「月曜日はなんでも一点だけ、20%引きになるんだって。行かなきゃなぁ」。岸本久俊さん(78)がスーパーから持ち帰った割引券付きのチラシを広げた。節約のために総菜は買わず、一人分を手作りする。

 香川県の瀬戸内海に面した町で生まれた。専門学校で理容師資格を取得し、大阪や東京などを巡った。三十歳になる前に妻(79)とともに浜松市に移り、娘を授かった。市内外の理髪店を転々とし、店長も経験した。

 十年ほど前、妻が脳梗塞で倒れて介護が必要になると生活は暗転した。自身に大腸がんも見つかり、体重は十五キロ落ちた。七十代半ばで仕事を辞めざるを得なくなった。

 はさみ片手に生涯現役を貫くつもりで、蓄えはなかった。厚生年金で月三万円を受けるが、平均で月五万円という国民年金の受給者よりも低い。年金に加入していない勤め先があったからなのか分からないが、年金制度への関心が薄かったのは確か。子育て中の娘は頼れず、三年前から生活保護を受ける。支援団体によると、受給額は月に約七万円で、年金と合わせた月収は十万円程度となる。

 家賃や光熱費、食費を支払うと、手元に残るのはわずか。自宅から七キロほど離れた介護施設にいる妻も生活保護を受ける。見舞うときは、悪天候でもバスやタクシーを使わずに自転車だ。「若いころは、仕事のあとに仲間と飲むのが楽しくて。もっとお金をためなかった自分がばかだった。後悔先に立たず、だよ」

 金融庁の報告書を巡る与野党の攻防は「正直よく分からない」。それでも、年金を受給しているか問われた金融担当相が「正確な記憶がない」と発言したことにはあきれた。「政治家は金持ちだから、貧しい人たちの気持ちは分からないんだろう。老後の楽しみは何もない。日々、生きることで精いっぱい。消費税が上がれば、さらに生活は苦しくなるよ」

 厚生労働省の調査によると、高齢者世帯のうち、総所得が公的年金や恩給のみの世帯が半数に上る。多くの人が年金頼みで、生活が苦しいと感じているのが現状だ。各党は参院選で年金に関し、受給開始時期の選択肢の拡大や、低所得者への月五千円の給付といった公約を掲げる。

 「本当に信頼できるのは、自分の生活を心配してくれる人たちだけ」と話し、必ず投票に行くという岸本さん。「言う資格がないかもしれないが、若い子も含めみんなが将来にわたってもっと安心して暮らせるようにしてほしい」

(古根村進然)

主な政党の公約

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