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滋賀

<現場を歩く>(中)憲法と自衛隊 今まで通り守れるか

2019年7月2日

銃弾の破片で乗用車の窓ガラスが割れた現場付近。訓練は再開し、砲弾の鈍い音が聞こえる=高島市今津町で

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 六月中旬、小鳥のさえずりを遮るように砲弾の鈍い音が響いていた。陸上自衛隊饗庭野(あいばの)演習場(高島市)を横断する国道303号。昨年十一月、訓練で発射された迫撃砲の弾が付近に落ち、その破片で民間人の乗用車の窓ガラスが割れた現場だ。

 乗用車に乗っていた同市朽木雲洞谷の川村長太郎さん(72)は当時、車を路肩に止めた直後だった。「一つ間違っていたら、笑い事では済まされなかった」。最近も現場付近で耳にする砲弾の鈍い音に、あの日の記憶がよみがえるという。

 陸自側は原因の説明に、方位角を二二・五度も誤ったまま射撃したり、着弾点を確認せず射撃を続けたりした「人為ミス」が重なったとする。着弾地点にビデオカメラを設置する再発防止策を掲げ、今年一月から実弾射撃訓練を再開した。

 市民グループあいば野平和運動連絡会共同代表の早藤吉男さん(77)=高島市=は「分析が甘い」と厳しい。自衛官の採用数が四年連続で計画を下回っているとし「昨年の事故は隊員の質が下がったことが原因ではないか」と持論を語る。

 安保政策は近年、大きく変ぼうしている。二〇一四年七月には、集団的自衛権の行使を解釈で容認し、他国への攻撃に日本が反撃できるように道を開いた。一五年九月には、安全保障関連法が成立。同盟国・米国との軍事一体化が進んでいる。

 早藤さんは「安倍政権が安保政策を前に進めるとともに、『自衛隊離れ』が進む」と推測。今回の参院選で憲法が争点の一つになっていることを懸念し「九条に自衛隊が明記されたら、徴兵制の可能性だって出てくるのでは」と嘆く。

 滋賀は安全保障政策の最前線の一つだ。自衛隊施設が高島市や大津市などにあり、饗庭野演習場は、中部方面隊が管轄する中部地方から四国、中国地方までで最大の演習場だ。今年二月には、米軍の新型輸送機オスプレイが飛来した。

 川村さんも悩む。「もちろん望むのはこれまで通りの平和。でも中国や北朝鮮のニュースを見ると、日本がなめられちゃうのも正直困る」。戦後七十年以上続いた平和を維持するには、何が必要か。地に足の付いた論戦が求められている。

 (成田嵩憲)

◆主要政党の憲法に対するスタンス

 自民は「早期の改憲を目指す。自衛隊の明記や緊急事態対応など4項目を改正する」、公明は「9条は、多くの国民は自衛隊を違憲の存在と考えず、今後、慎重に議論する」。立憲民主は「9条の改悪に反対。解散権の制約などを議論」、国民民主は「自衛権行使の限界が曖昧なまま9条に自衛隊を明記すべきではない」、共産は「9条改悪に反対し、断念に追い込む」、社民は「憲法改悪に反対し、平和憲法に基づく安全保障政策を実現する」と主張する。

主な政党の公約

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