• 中日新聞ウェブ
  • 中日新聞プラス

滋賀

<現場を歩く>(上)相次ぐ自然災害 政策変動、宙浮く安全

2019年7月1日

2013年の台風18号で大戸川が氾濫した地点を紹介する山元さん=大津市内で

写真

 家の壁や扉には、浸水の跡が分かる黄色い筋が今も残る。大津市上田上地区に住む七十代女性の自宅。二〇一三年九月の台風18号による大戸(だいど)川の氾濫で、未明に自宅裏から水が流れ込み、床上浸水した跡だ。

 「あの夜から雨が本当に怖くなって」。一七年十月の台風21号では、運用が始まったばかりの防災無線から避難勧告が流れ、心臓がバクバクした。そして今年も、台風の季節を思うと、気が気でないという。

 大戸川は、大きく屈曲するため「暴れ川」と言われる。古代から何度も洪水に見舞われ、江戸時代には流域の集落が次々に山側へ移住した。水害と闘う歴史は今もなお続き、住民の不安はぬぐい切れていない。

 そんな中、注目を集めるのが、国が本体工事を凍結している大戸川ダム。三日月大造知事が今年四月、県の方針を従来の「凍結」の立場から「賛同」に転換した。県の検証結果から、治水効果があると判断した。

写真

 だが女性は県の検証結果に目を通し、疑問を投げかけた。「ダムを造ってもあふれる可能性があるって書いてある。結局、氾濫したら大きな被害が出る。川が氾濫しないように河川改修を進めるのが一番では」

 ダム建設の見通しはいまだ不透明だ。事業開始から五十年が過ぎたが、県と国が足並みをそろえても、工事費の地方負担分のほとんどを担う大阪、京都両府が賛同しない限り、事業の復活は望めないからだ。

 それでも上田上、田上の両地区でつくる大戸川ダム対策協議会の山元和彦会長(75)は、ダムの早期着工を望む。「ダムが全てではない。でも、ここで私たちが幸せに暮らしていくには不可欠だ」と強調する。

 上田上地区には、ダム湖に沈むはずだった旧大鳥居町の住民が移住した集落がある。「国策で故郷を離れた人たちを思うと、『ええ加減にしてや』という気持ちでいっぱい。人ごとに思えない」。そんな心慮も要望活動を後押しする。

 全国各地では近年、かつてない豪雨災害が相次いでいる。大戸川ダムの建設は巨費を投じるに見合う事業なのか。凍結を維持する場合、流域住民の安全はどう守るのか。国の防災対策が改めて問われている。 (成田嵩憲)

    ■  ■

 安倍政権の六年半を審判する参院選が、七月四日に公示される。防災減災、消費増税、憲法、外国人との共生…。課題が山積する中、県民の暮らしには何が起きているのか。記者たちが滋賀の現場を歩いた。

◆主要政党の防災・減災に対するスタンス

 自民は「7兆円規模の3カ年緊急対策を着実・迅速に進める」、公明は「社会のあらゆる知恵を総動員し、世界一災害に強い『防災大国』に」と主張。立憲民主は「防災庁設置を目指す」、国民民主は「予防的な施策に積極的に取り組む」、共産は「危険箇所の点検と対策を進め、消防や住民を中心にした地域の防災体制を強化する」、社民は「災害発生時の被災者支援を強化する」と主張する。

主な政党の公約

新聞購読のご案内