• 中日新聞ウェブ
  • 中日新聞プラス

長野

県内でも広がる疑問、不安の声 老後資産問題

2019年7月14日

金融審議会の報告書は「約2000万円の取り崩しが必要になる」と指摘した=長野市で

写真
写真

 二十一日に投開票される参院選長野選挙区(改選数一)では、老後に夫婦で二千万円の蓄えが必要と試算した金融審議会の報告書を巡る問題が争点に浮上している。全国的に広がった、年金制度の将来性や報告書の取り扱いへの疑問や不安の声が県内でも出ているからだ。

 「若く楽しい時間を貯金のために節制するのもモチベーションが全然上がらない。二千万円は絶対に無理」。美容関係の仕事に就く長野市の大久保綾香さん(24)は、苦笑いした。

 金融審議会市場ワーキング・グループが六月に公表した報告書では、無職の高齢夫婦世帯の平均的な収支は毎月五万円ほどの赤字で、定年退職から約三十年間生きると仮定して、二千万円ほどの老後資産が必要とはじき出した。

 審議会は首相、金融担当相らの諮問機関。その報告書に対し、安倍晋三首相は「誤解につながる」と主張。麻生太郎副総理兼金融担当相は「政府の政策スタンスと異なる」と報告書の受け取りを拒んだ。

 「国会で対策をすぐ議論してほしい」と語気を強めるのは、山ノ内町の阪本良樹さん(65)。妻(63)と二人暮らしで、夫婦で月二十五万円ほどの年金を受給している。

 中野広域シルバー人材センターに登録し、デイサービスの送迎で月十万円ほど手に入る。「年間でみると、この収入がなければ完全に赤字。あと十年は働きたい」と語る。思い描く通りに働ければ八十歳まで生活できるだけの貯金はあるが、その先には不安が付きまとう。

 同じように顔を曇らせるのは、箕輪町の男性会社員(50)。妻と離婚後に二人の子どもを育ててきたが、仕事と家事の両立は容易ではなく、教育費などもかさんだため、貯金はほとんどない。男性は「いくら切り詰めても年金だけで暮らせないだろうから、生活保護を利用するしかない」と漏らした。

 厚生労働省の生活保護受給世帯に関する調査では四月時点の概数で、受給している百六十二万六千九百三十世帯のうち、55%に当たる八十九万五千二百四十七世帯が高齢者世帯で、一九八九年の35・6%から大幅に上昇している。

 社会保障制度に詳しい法政大の小黒一正教授(公共経済学)は「年金の機能が弱まれば、貧困化した高齢者が増えて生活保護にシフトする可能性がある」と予測。その場合、財源問題への対応は避けられず「現在の年金制度を続けるのか、社会保障制度を再構築するのか、政治が早急に方向性を定める必要がある」と指摘した。

(高橋信)

主な政党の公約

新聞購読のご案内