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長野

<争点の現場から>(4)農畜産物対米交渉 自由化加速へ危機感

2019年7月4日

牛に餌を与える矢沢さん=飯田市下殿岡で

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 「関税フリー(無関税)もあるかもしれない。そうなれば、苦境をはね返すだけの力は残っていない」。飯田市下殿岡の和牛農家、矢沢邦登(やざわくにと)さん(68)がため息をついた。心配するのは、今後の日米貿易交渉で米側に押し込まれ、米国産の安い牛肉が国内で出回る事態だ。

 背景にあるのは、トランプ米大統領のツイッター。五月下旬に来日して安倍晋三首相とゴルフをした後「日本との貿易交渉は大きく進展した。農産品と牛肉が交渉の中心だ。大きな数字を期待する」と投稿した。

 国会では当時、安倍首相が何らかの密約を交わしたのではないかと議論が紛糾した。大統領が「参院選(が終わる)までは交渉の多くのことで待つ」と交渉の妥結の先送りもツイッターで容認したため、先が見通せない不安が県内の農家にも強まっている。

 四十頭の和牛を育てている矢沢さんだが、近年の経営環境は厳しいという。

 矢沢さんによると、子牛の繁殖農家が減少したことで、三十年前と比べて仕入れ価格が一頭当たり四十五万円前後上昇。小麦やトウモロコシなどの餌代も、中国の需要拡大などで三十年前より一・七倍ほど値上がりした。「コストの高騰で、経営はぎりぎり。これ以上、牛肉の相場が下がれば、生産を止める農家が増えかねない」と漏らす。

 県が昨年二月にまとめた試算では、県内の農林業の生産額は米国が離脱した環太平洋連携協定(TPP)の発効で十四億六千六百万円減少。日欧経済連携協定(EPA)の発効で同様に十億七千七百万円減る。ともに牛肉や豚肉などへの打撃が最も大きく、TPPで八億七千百万円、EPAで五億三千七百万に上った。

 JA長野中央会の雨宮勇会長は六月下旬の記者会見で、日米貿易交渉で自由化の動きが加速しているとの見方を示し「食料自給率や農山村の生産基盤の低下が懸念される」と強い危機感を表明。政府には「食料安全保障の立場から毅然(きぜん)とした交渉を」と求めた。

 間近に迫った参院選を念頭に「農家が生業として続けられなくなれば、今以上に食料を海外依存しないといけない。これから国民全体で考える必要がある」と指摘。選挙戦で農政に関する議論の深まりを期待した。

(安永陽祐)

 =終わり

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