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長野

<争点の現場から>(2)米中貿易摩擦  中小製造業者が悲鳴

2019年7月2日

中国経済減速などの影響で生産調整している自動車部品のライン=諏訪市の渋江精密工業で

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 「これほどの減益は二〇〇八年のリーマン・ショック以来だ」。安曇野市穂高牧に中核工場を持つ精密減速機メーカー、ハーモニック・ドライブ・システムズ(東京)の丸山顕取締役(57)が声を落とした。同社の二〇年三月期の連結純利益は前期比99%減の五千万円になる見通しだ。

 主力の歯車は主に産業ロボットの関節に用いられ、自動車部品の塗装や溶接、半導体やスマートフォン、家電の組み立てなどに活用されている。

 米国のトランプ大統領が一八年初めごろに対中関税引き上げをにおわせた当初は「影響は限定的」とみていたが、その後に制裁関税を発動。安曇野市で新しい生産設備を稼働させ、一九年三月期の連結純利益で過去最高の百十六億円を記録したが、中国向け設備投資の鈍化で受注が徐々に減少していった。

 当面は経費削減などでしのぐ考え。「自動車の自動運転や第五世代(5G)移動通信システム整備の流れは止まらないだろう」と再び好景気の局面が訪れると期待。政府には「民間を後押しする王道の対応を」とロボット事業への支援継続を求める。

 諏訪市の精密部品製造「渋江精密工業」の渋江祐貴社長(36)は「増産態勢を整えてきたが、六月になっても受注が増えない。取引先に聞くと、米中貿易摩擦の影響もある」とこぼす。自動車関連が売上高の六割を占めるが、主力の発光ダイオード(LED)ヘッドライト部品は受注が計画の八割ほどにとどまっている。

 同社では、中国経済の減速などを背景に昨年末から受注が落ち込んだ。今年六月の売上高は、好調だった昨秋に比べて三割ほど減収となる見通し。自動旋盤機の稼働を八割ほどに抑え、在庫過多にならないよう生産調整している。諏訪商工会議所副会頭も務める同社の渋江利明会長(70)は「貿易摩擦が本格化すれば、マイナス要因はさらに増えるかも」と今後を注視する。

 長野経済研究所が四月に公表した調査によると、県内製造業の企業百四十社のうち、42・1%が「既に米中貿易摩擦の影響が出ている」と回答した。「三〜六カ月以内に影響が出る見込み」と答えた18・6%を含めると、六割のメーカーが米中貿易摩擦のあおりを受ける形だ。

 県内の製造業は、県の経済規模を示す県内総生産(名目)で一五年度に三分の一近くを占めた主要産業。同年の県内輸出出荷額の四分の一が中国だ。

 研究所の小沢吉則調査部長(56)は「中国は米国向けの生産拠点であり、重要な取引先」と指摘。県内企業が得意とする半導体や工作機械を買っていた中国経済が減速し、多くの県内企業が受注を減らしたという。

 中国以外へ生産を移すなど対策を中小企業が取るのは難しく、研究所の調査でも七割の企業が「対策がない」と回答。小沢部長は「企業では限界がある。各国が米国に強い意見を言えない中、解決にどう動けるか。政府の外交手腕が試されている」と語った。

(松本貴明、中沢稔之、渡辺陽太郎)

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