<長野選挙区情勢>(上)揺らぐ羽田王国
2019年6月29日
羽田さん(手前中央左)の事務所開きであいさつする千曲会の原副会長(右)=上田市で |
「平和な日本をつなぐ。四期二十年の感謝を申し上げ、協力をお願いしたい」。国民民主党現職の羽田雄一郎さん(51)は六月上旬、上田市であった事務所開きで、支援者百三十人ほどに呼び掛けた。後援会「千曲会」副会長の原利夫千曲市議(84)の音頭で、必勝を期して手締めした。
「支持政党は『羽田党』。羽田家を国政に送る目的で、一致団結してきた」。千曲会について、原副会長はこう語る。羽田家は羽田さんの祖父武嗣郎さん(故人)の時代から戦後の一時期を除いて、国会議員を輩出してきた。
羽田さんの父で元首相の孜さん(同)が自民党を離れた後も変わらぬ支援を続ける熱心な会員ばかりだったが、その孜さんは二年前に亡くなった。現在の会員はほぼ六十代以上。武嗣郎さん時代からの会員は八十、九十代を迎える。五十代以下は少数だ。
五選を目指す羽田さんは「過去四回の選挙と比べ、格段に厳しい」と語る。千曲会の高齢化以外にも懸念があるからだ。
「嫌いになったわけではないが、けじめをつけなくてはならなかった」。羽田さんのお膝元、上田市で昨年三月にあった市長選を、六十代の元千曲会男性幹部=同市=が振り返った。支援する候補を巡り、内部で対立。千曲会が元衆院議員の推薦を決めたことで、先に立候補意向を示していた前市議の男性を推す幹事長ら二十人ほどが脱会する事態となった。
市長選は前市議の男性が初当選し、元衆院議員は敗れた。元幹部は「自民と関係の深い建設業界を頼り、大きな借りができた」と指摘。四月の県議選上田市・小県郡区では、応援した自民現職ら四人が当選。千曲会が推薦した国民現職は落選し、議席を失った。
県内全体でも県議選で国民の公認候補は二人とも落選。改選後は自民党県議団が二十九人を占め、二十五年ぶりに県議会の単独過半数を獲得した。中でも東信地域を中心とする衆院長野3区では、改選前の一人から八人と大幅に増えた。
上田市長選のほころびから、県議選で自民の切り崩しに遭った「羽田王国」。羽田さんも、選挙の実務を担ってきた元幹部を失い、東信地域で自民が勢力拡大したことは「痛手に違いない」と認める。年配の元幹部らに遠慮していた若手会員たちが今春、新たな支援組織「翼の会」を立ち上げたことに触れ「生き生きと活動し、新しい支援者も開拓してくれている。十分戦っていける」と意気込む。脱会した元幹部は「自民が強固になり、羽田ブランドが低下したのは間違いない」と冷静に見る。「自民党県議団に入ったばかりの県議は参院選が踏み絵。必死になって票を集めるだろう」と今後の行方を見守っている。 (渡辺陽太郎)
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参院選が七月四日公示、二十一日投開票される。長野選挙区(改選数一)には自民党新人の元衆院議員小松裕さん(57)と国民民主党現職の羽田雄一郎さん(51)、いずれも新人でNHKから国民を守る党員の社会保険労務士古谷孝さん(43)、労働者党県支部長の元高校教諭斎藤好明さん(68)の四人が立候補を表明している。事実上、小松さんと羽田さんの一騎打ちとなる見通しで、決戦を控えた現状を探った。