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三重

<解説>個性なき信任投票

2019年7月22日

 事実上の与野党一騎打ちで吉川有美さんが勝利したのは、安倍政権の継続か転換かの二者択一で、有権者が継続を選んだ結果といえる。

 全国での与野党の力の差が、三重での開票にもそのまま表れた。吉川さんも芳野正英さんも、強い個性や知名度で票を集める候補ではなかった。それだけに政権への信任投票の色合いは強かった。

 選挙中、吉川さんは安倍政権での経済や雇用の回復、幼児教育無償化、県北部の道路整備の実績をアピールし、「与党でなければ、国の予算をとることはできない」と訴えた。あけすけなほどの主張だったが、有権者には明快に届いた。

 「民主、民進王国」と呼ばれた野党には、手痛い敗北だ。要の岡田克也衆院議員は県内に張り付き、懸命のどぶ板選挙をした。労働組合もかつての力を失ったとはいえ、十分に動いていた。それでも野党が分裂する中、新人の芳野さんが無所属で当選して何ができるのか見えにくく、分かりやすい選択肢すら野党は提示できなかった。

 だが、今の日本と三重の針路が二択で選べるほど単純ではない状況は、忘れてはならない。吉川さんは選挙中、憲法改正や消費税増税への言及を避け、金融庁の報告書の受け取り拒否に表れた長期政権のおごりも説明することはなかった。吉川さんに投票した有権者も、安倍政権のすべてを肯定したわけではない。

 芳野さんが格差拡大を危ぶみ「若者が生活が苦しいことを自己責任だと思ってしまう社会はおかしい」と訴えたことは重い。この訴えに有権者が一票をきっちりと託せる体制こそ、野党はあきらめずに築くべきだ。

 (森耕一)

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