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三重

<争点 現場を歩く>(中)地方創生

2019年7月11日

◆津駅前「40年前と変わらず」

東京や名古屋のようには再開発が進まない津駅前=津市で

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 平日昼間の津駅前。出張で降り立った浜松市の男性(43)は「何だか、さみしい感じがします」とぽつり。

 「がっかりした人はいても、すごいという声は聞いたことがない。県都の玄関口として恥ずかしいと思うことの方が多い」。駅近くのビルを管理する青山春樹さん(59)は憂えていた。

 津駅前では、二〇〇一年に複合ビル「アスト津」が完成し、細い路地が入り組む住宅街だった駅北側では津市の土地区画整理事業が進む。ホテルも増えた駅前だが、「人が集まる商業施設などはなく、四十年以上前と何も変わってない」と青山さんは話す。

 それでも駅前に企業が移転し、市役所に近い大門や丸之内地区は空洞化が進んだ。昨年十一月開業のイオンモール津南をはじめ、週末は駐車場完備の郊外型商業施設がにぎわう。

 東京は来年の東京五輪に向けて活況に沸く。新国立競技場や選手村などの建設現場でクレーンが立ち並び、JR山手線新駅の工事も始まった。名古屋ではリニア中央新幹線の開通を見据え、駅前で大規模な再開発が相次ぐ。

 安倍政権が掲げる「地方創生」に、「実感はない」と青山さん。人口が減る地方に対し、経済力のある大都市に資本が集まる傾向は続くとみられる。

 「一つずつでも変えていかないと、津市そのものが陳腐化してしまう」。津駅前の活性化に取り組む団体の代表も務める青山さんは、駅前ロータリーの二層化や駅ビルの再開発などを提案する。実現への道のりは遠いが、「民間だけでなく、国や県、市が一体となって協力する必要がある」と訴える。

 (斉藤和音)

◆移住増えても「不利」

廃止された尾鷲三田火力発電所。跡地に企業を誘致できるか=昨年9月、尾鷲市で(本社ヘリ「あさづる」から)

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 県南部では人口減少が加速度を増す。かつてはブリ漁や尾鷲ヒノキの一大産地として栄えた尾鷲市。市の人口は一九六〇年の三万四千人をピークに減り続け、昨年、ついにピーク時の半分にまで落ち込んだ。

 市は移住促進に力を注ぐ。二〇一四年に創設した空き家バンク制度を使い、今年三月末までに百三十世帯の二百五十一人が移住した。一七年には地域おこし協力隊員が常駐する「おわせ暮らしサポートセンター」を設け、空き家を改修した移住体験住宅や仕事のあっせんにも取り組む。

 なぜ、人口増に至らないのか。センターの木島恵子理事長(52)は「自然減や学生の市外進学などで、移住者が増えても人口がプラスに転じるのは難しい」と話す。地方間で移住希望者の取り合いが生じる中、「金銭的な補助がない尾鷲市は不利」ともいう。

 半世紀にわたり市の経済を支えてきた中部電力尾鷲三田火力発電所は昨年十二月、廃止された。ナゴヤドーム十三個分もの跡地に雇用を生もうと、市と中電、尾鷲商工会議所は企業誘致を打ち出している。

 名古屋や大阪などの大都市圏から二百キロほど遠いが、市の担当者は「名古屋から車で二時間の距離はビジネスでは許容範囲。高速道路が開通していなかった時代を考えれば、むしろ強み」と自信をみせる。

 市民の反応は冷ややかだ。三十代の男性は「尾鷲は衰退している町。企業は来たいと思うのか」と話し、七十代女性は「企業誘致は絵に描いた餅」と言い切る。

 (木村汐里)

 <地方創生> 東京一極集中と地方の人口減少の克服に向け、政府が2014年に打ち出した政策。19年度までの5カ年計画は、企業の地方移転や地方大学の活性化などを掲げた。自治体には地域活性化の具体策を示す「総合戦略」の作成を求め、移住者の呼び込みや産業振興などに充てる財源の一部を交付金で支援している。20〜24年度は、都市部に住みながら地方と交流する「関係人口」の拡大を挙げている。

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