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岐阜

<岐阜から考える>(4)老後の暮らし

2019年7月13日

妻と喫茶店を経営するつもりだった。カウンターでたたずむ原さん=中津川市内で(布藤哲矢撮影)

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 うれしいはずなのに、心が晴れない。中津川市の原保さん(82)は八月、ひ孫が生まれる予定だ。年金に頼る生活は苦しくて、とても祝いの品など買ってあげられない。

 「お祝いが言葉だけでは寂しすぎるよね」。老後の生活費の足しにしようと、妻(83)と経営するつもりで建てた喫茶店のカウンターで、涙ぐんだ。喫茶店は、自分のけがや妻の病気で今は閉めている。

 海軍の街、神奈川・横須賀で生まれた。戦時中、激化する空襲から逃れ、父の出身地の中津川に引っ越した。中学卒業後、大工に弟子入り。七年修業して、独立した。酒やたばこ、賭け事は一切やらない。堅実な働きぶりが評判になり、次々と仕事を頼まれた。「天職だった」と振り返る。

 「焼け野原の日本を経済大国にしたのは、私たちの世代だ」と、仕事、仕事の人生に誇りを持ってきた。暗転したのは六十三歳のとき。使っていた電動丸のこがはねて右脚のふくらはぎを切り、松葉づえ生活になった。年金の受給開始年齢を繰り上げると減額されることは分かっていたが、収入が必要だった。「背に腹は代えられない」と受給を始めた。

 今の年金受給額は、妻とあわせて約十万五千円。とても、それだけでは生活できない。右脚のしびれに耐えながら月に十日ほど、住宅修繕などの仕事をする。多くても、収入は月八万円ほど。畑を借りて野菜を作り、何とか食いつないでいる。新聞の購読もやめた。「服なんてしばらく買っていない」。月に一回、近くの温泉に夫婦でつかるのが、唯一のぜいたくだ。

 厚生労働省の調べによると、二〇一七年度の年金の平均受給額は、国民年金のみの人で五万五千円。厚生年金受給者は十四万四千円。月で八万九千円、年百六万八千円の格差がある。自営業者は定年がない、とはいっても、高齢になれば誰だって、けがや病気のリスクは高まる。働き続けるのには限界がある。原さんは「毎日、気が休まるときがない」という。

 年金支給額の引き下げやマクロ経済スライドによる減額は違憲だとして、訴訟を起こした長谷川金重さん(83)=大垣市=は「戦後日本をつくり上げてきた私たちを、なぜ、社会の隅に追いやるようなことをするのか」と憤る。

 提訴からまもなく四年、時間もお金も費やしてきたが、闘争心は衰えない。将来世代への責任だと思うからだ。「老後に希望を持てる制度にしないといけない。これは若者のためだ」

 年金以外に二千万円の蓄えが必要とした金融庁の報告書で、老後の不安が拡大する中で迎えた参院選。今秋の消費税率の10%引き上げの是非も問われている。原さんは言う。「どうやって暮らせばいいというのか。誰か教えてくれ」

 (高橋貴仁)

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