滋賀

<課題の現場から>(中)人口減少対策

2015年4月8日

 多賀町の中心街から北東へ約六キロ。水谷(すいだに)の集落は、標高千メートル級が並ぶ鈴鹿山脈の山あいにある。

収穫したコンニャクイモを見つめる住民。昨年、地域おこし協力隊員(奥)と初めて栽培した=多賀町水谷で

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 二十二世帯三十七人のうち、六世帯が独居の高齢者。県が芹谷ダム建設を計画した一九六三年当時は三十一世帯百五十七人が暮らしていたが、「いずれ水没する」と若者が相次いで故郷を離れた。二〇〇九年に建設中止が決まった時には、既に水谷の“地域力”は弱っていた。

 高齢化率は70%超と高比率。それでも総務省の地域おこし協力隊員として、山下政満さん(40)と谷涼香さん(23)が昨年四月に移り住み、一定割合は引き下げている。

 二人は耕作放棄地二百七十平方メートルでコンニャクイモ栽培に挑戦。住民にとっても初の試みだったが、協働で土にまみれ、手探りで収穫にこぎつけた。「新たな特産になりそう」。住民の口からは、そんな言葉が出るようになった。

 ただ、高齢者ばかりの集落。周辺の山は人の手が入らず、荒れ放題になっている。サルにシカといった獣害が悩みの種だ。ある女性(73)は「昔は山菜を採りに訪ねてくる人もいたけど、このままでは人も来ないね」とため息をつく。

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 生活の足も、心もとない。路線バスは約三十年前に廃止。車を運転しない、できない場合、予約制の乗り合いタクシーを使うしかない。月一回、彦根市内へ通院する一人暮らしの女性(85)は「今は元気だからいいけど」。買い物にはミニバイクを使うが、雨の日は我慢だ。

 多賀町は一三年度、出生数が前年度比二十人増の六十人台になった。〇九年度に少子高齢化の対策チームを作り、県内で初めて中学卒業までの医療費無料化や、固定資産税を助成する定住支援策を実現。民間の住宅団地誘致も軌道に乗りつつある。

 しかし、昨年五月に発表された「消滅可能性都市」に、多賀町の名前も挙がる。存立が危ぶまれる自治体。少子高齢化、過疎化の対策に特効薬はない。

 「同じ過疎地域でも事情はそれぞれ違う。村の人も、足を運んで一緒に考えてくれる政治家を望んでいると思う」と地域おこし協力隊の二人。「必要なのはものなのか、人なのか。地域にあったお金の使い方をすることが、本当の地方創生につながるのではないか」。

(河辺嘉奈子)