滋賀

<課題の現場から>(上)原子力防災

2015年4月7日

 福井県の原発再稼働の流れが加速する中、滋賀県民にとっても人ごとでない原発問題。県内では長浜、高島の両市が、重点的な防災対策が求められるUPZ(緊急時防護措置準備区域)に入る。避難計画の策定などが進むが、要支援者の円滑な避難など課題も残る。

避難中継所に到着し降車する避難訓練参加者=2014年11月16日、長浜市の南郷里小学校で

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 関西電力美浜原発(同県美浜町)などから三十キロ圏内の長浜市余呉町中河内。二十六戸の集落は高齢化率が75%を超える。同自治会の佐藤登士彦副会長(78)は「高齢化と、一本しかない避難道路が不安」とこぼす。

 三年前の原子力防災訓練では、避難前に集落内の決まった場所に住民が集合するのにも一苦労。高齢で動くのが大変な人もいて時間がかかった。「訓練だからいいが、万が一のときだったら−」

 避難経路は、中河内から南東八キロほどの高時川上流で計画された丹生ダムが昨冬に事実上の中止となるまでは、ダムを経由して市役所余呉支所方面へ抜ける県道整備の計画があり、避難道の選択肢が増える希望もあった。しかしダム中止となれば白紙の可能性もあり、町内を南北に走る国道だけが逃げ道になる。複合災害で国道が寸断されれば集落が孤立する恐れも。佐藤副会長は「道路整備はしてほしい」と切実だ。

 これに対し、市防災危機管理課は「全てを被害想定すると防災計画が成り立たない部分もある。まずは単体の災害をきっちり押さえることが大事」(担当者)との見解を示す。

 一方、関電大飯原発(おおい町)のUPZ圏内にある高島市今津町角川。夫婦で暮らす谷村延彦さん(82)と久江さん(79)も避難に不安を抱く。市が用意したバスに乗車する避難集合場所の今津西小学校は集落から南に約一・五キロ。久江さんは「体が悪く歩くのは大変。車も運転できないから逃げる手段もない」と困惑顔だ。延彦さんは「バスに集落まで迎えに来てほしい」と求める。

 同市では昨年、障害者ら要支援者が参加した避難訓練を初めて実施。市原子力防災対策室の担当者は「訓練では人数も限られていたし、動ける人が多かった。動けない人たちをどう避難させるか」と頭を抱える。

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 県原子力防災室も要支援者の避難計画については苦慮する。担当者は「昨年から健康医療福祉部も含めてマニュアル作りに取り掛かっている」と話すが、それでも「要支援者にはいろいろなケースがあり決めかねている」のが実情。

 東日本大震災から四年。地域防災計画の策定や資機材の準備などを進めてきた県は「実行力を上げていく段階に入った」(同室担当者)。机上論に終わらせないためにも、訓練や講習会などをしながら追加や修正を加えていく構えだ。

(山中正義)

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 十二日投開票の県議選。五十九人が立候補し十二人の無投票当選が決まったが、選挙戦に臨む候補は日々懸命の訴えを続ける。明確な争点が見られない中、有権者の関心事となっている諸課題の現状はどうなっているのか。現場の様子を追った。