石川

【一強潮流 2015石川県議選後】(上)自民膨脹、不安定要素にも

2015年4月14日

当選が決まり、谷本正憲知事から祝福の電話を受ける福村章さん=12日夜、石川県小松市芦田町の事務所で

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 受話器の向こうで知事の声が弾んだ。「一緒にやれることを幸せに思う」。石川県の谷本正憲知事を支え、十二日投開票された県議選で貫禄の十選を果たした自民党県連の重鎮、福村章さん(76)はそう伝え、集まった支援者の前で二人の関係を見せつけた。県政界関係者の多くは、事実上この二人が県政を動かしているとみる。

 自民が独占するか、民主など非自民勢力が阻むか−。森喜朗元首相のお膝元、小松市選挙区(定数四)は政党対決だけでなく、谷本県政の行く末をも占う意味で注目された。若手や女性の新人も出馬し「世代交代」も問われるような戦いになったが、まったく動じなかった。福村さんは「大変苦しい選挙戦だった。やっぱり福村軍団はすごいな」と会場を沸かせ、「経験と知恵のすべてを振り絞る」と約束した。

 自民は今回、公認の二十四人に加え、推薦の無所属二人が当選し、改選前の二十五議席から一つ上積み。無所属で当選した自民系の元職や新人が南加賀地方で非自民勢力を破り、さらなる伸長へ可能性を広げた。

 「自民が議長も副議長ポストも割り振っている。一人会派では何回当選しても…」。投開票から一夜明けた十三日、党県連の木本利夫幹事長らは、一強のうま味をちらつかせながら、いち早く無所属議員の取り込みに動いた。金沢市内で開いた五役会では、元職や無所属で出馬した新人らへの対応を協議。早くも六人を“内定”し、富山県議会のような議席の七割に上る三十議席の大台が現実味を帯びてきた。

 議会日程の連絡・調整で、五役会に一時同席した議会事務局の職員に対して、ある幹部は「所属議員も多い。自民の意向を聞きながら意思疎通を図ってやらんといかんよ」と注文する場面も。膨張する「自民一強」ぶりを印象づける一幕だった。

 県議会の新たな顔触れがそろったこの日、谷本知事は記者団に「知事に近いとか遠いじゃなしに、単に若返ればいいということではない。新人は前例にとらわれない活動をすることもあるけど、全体を見る力ではベテランに及ばない」と、ベテランとの密接な関係を批判的にとらえる意見を一蹴するように答えた。「互いに足らざる所を持ち寄り、議会を活性化させればいい」とも。

 現職では全国最多タイ六選の谷本知事。当選を重ねるごとに、自民内では多選の是非の議論が繰り返されてきた。自民が伸長するほど、知事も自民の意向を尊重せざるをえなくなる。だが所属議員が増えることで、知事との協調を優先させるベテランに疑問を感じる中堅や若手が台頭する可能性も高まる。

 これまで知事に近いベテランがそうした声を押さえ込んできたが、組織が膨張すれば内部の勢力争いが生まれ、知事との関係でも不安要素になりかねない。膨張自民の行く末は、谷本県政の命運をも左右しかねなない状況になりつつある。

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 石川県議選は、自民が改選前の議席を上積みし、無所属の当選者も数人加わる可能性があり、「一強」が加速する結果となった。民主など非自民勢力にとっては巻き返しへ正念場が続く。一強が県政界にもたらす影響や課題を探った。 (統一地方選取材班)