石川

【向き合う 統一地方選の争点】(5)原発の是非 活発な議論見えず

2015年4月9日

志賀原発の排気筒がそびえる赤住集落。事故の不安は住民に残されたままだ=石川県志賀町で

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 「福島の事故を見りゃ分かる。避難所は『忍』の一字。年寄りが避難しても無駄。事故が起きたら冥土に行くだけや」

 北陸電力志賀原発が立地する石川県志賀町赤住。一人で暮らす七十代無職女性は、原発で事故が起きたとしても避難する気はないという。

 県外に出ていった子どもはめったに顔を見せないし、近所との付き合いもそれほど多くない。立地計画が持ち上がったころから、事故の不安がある原発には反対だった。今は事故が起きないように祈りながら、自宅近くで畑いじりを楽しむ日々だ。

 断層問題を抱える志賀原発は1、2号機ともに再稼働のめどは立っていない。一方で、政府は原発を「重要なベースロード電源」との表現で、活用する方針を変えておらず、福島原発の事故後に見直した新規制基準に合格した原発は再稼働に向け手続きを進める。

 志賀原発五キロ圏に入る同町福浦港の男性会社員(66)は、政府の考えに賛成だ。だが「いざという時の避難方法を確立しないと。もろ手を挙げて、というわけにはいかない」とも思う。

 昨年十一月、志賀原発の事故を想定した政府主催の避難訓練では漁船による海路避難が悪天候で中止に。県道が寸断されれば孤立する恐れがあり、不安が募る。「冬に事故が起きたら、船を出すのは難しい。陸路の確保は本当に大丈夫なのか」

 県議選では能登地方の多くの選挙区と同じく、志賀町も無投票に。原発の是非も避難のあり方も、論戦の機会が失われた。二十一日には町議選が告示されるが、赤住の女性は「建ってしまった原発に今さら反対って言ってもしょうがない。人柄が好みの人を選ぶだけや」と無力感を漂わせる。

 志賀原発から半径三十キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)に市の一部が含まれる富山県氷見市。区域内の小中学校十一校のうち、原発事故に備えた避難訓練を実施したのは二校にとどまる。

 未実施校の一つ、速川小の田中雅子校長(57)は「小学校統合など目の前の問題があり、原発事故への対応は後手に回ってしまう。取り組んでいかなくてはと思うのだが…」と表情を曇らせる。

 住民の危機意識も必ずしも強いとは言えない。同小に息子が入学したばかりの三十代男性会社員は「原発は反対だが、訓練は行政に従ってやってくれればいい。周りではあまり原発の話題は出ない」。

 県議選氷見市選挙区は現職二人と新人の計三候補が定数二をめぐり激しい戦いを繰り広げる。「脱原発」や「縮原発」を訴える候補はいるが、事故への備えについて活発な論戦が交わされているようには見えない。 (渡辺大地、高島碧)

  =おわり