石川

【向き合う 統一地方選の争点】(3)雇用創出 企業以外も得 理想形

2015年4月7日

コマツの坂根正弘相談役(左から2人目)の案内で、こまつの杜を視察する石破茂地方創生担当相(右)=石川県小松市で

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 「会社だけ得をするのではない。地域も一緒に発展するモデルだ」。石破茂地方創生担当相が三月、人材育成拠点として本社機能の一部を地方に移転した建機大手コマツ(東京)の「こまつの杜(もり)」(石川県小松市)を視察し、評価した。

 人口減少抑制や東京一極集中是正など安倍政権の重要課題「地方創生」。その一端を担う企業の先駆的モデルと注目されるのがコマツの取り組みだ。

 二〇一一年五月、コマツはJR小松駅前の旧小松工場跡地に社員研修区域と一般開放部分を一体化した「こまつの杜」をオープン。この中の施設で毎年四月から三カ月、グループ企業を含め三百人の新入社員が研修する。宿泊施設や食堂はあえて設けず、全員が市内のホテルや旅館に泊まり、食事も弁当を注文。研修や会議などで年三万人近い流入があり、市内の経済波及効果は年七億円とされる。

 この拠点施設のほか、〇二年には同市粟津工場に購買部門を移し、二施設合わせ本社から百五十人が異動。同社の坂根正弘相談役・特別顧問は「地方に大きな工場を持つ企業は多い。その近くに研究や教育施設を移すことは可能。コマツが事例を見せていければいい」と話す。

 北陸新幹線が金沢まで開業した今、北陸には追い風も吹く。

 「この辺りの人通りが増えればうれしい」。富山県黒部市の電鉄黒部駅近くで、はんこ店を営む女性が語る。約三百メートル離れた場所で、ファスナー大手のYKKが集合住宅と商業施設からなる「パッシブタウン」を建設中。住宅は二五年度までに二百五十戸(八百人)分が完成する予定だ。

 YKKとYKKAPは東日本大震災後、リスク分散で東京本社の一部機能の黒部移転を進める。パッシブタウンは、社員に快適な住環境を提供するのが狙いの一つ。既に本社の社員百十人が移り、来春までにさらに百二十人が転勤。加えてYKKAPは県内に分散していた研究開発拠点を一カ所にまとめる新施設「R&Dセンター」も建設中。センターで社員三百七十人が働き、年間五千人が商談に訪れる見込みという。

 同市商工観光課の担当者は「人口減少に歯止めがかかるだろう」と歓迎。企業の北陸進出意欲は高まっているとみて、新工業団地造成も検討する。

 石川県でも三月、スマートフォン向け中小型液晶の世界大手ジャパンディスプレイ(東京)が白山市に新工場を建設するニュースが舞い込んだ。千七百億円は前例のない投資規模。安価な電力料金や豊富な水、交通インフラ充実などに加え、近くの別工場の従業員が即戦力となるメリットもあるとされる。

 「雇用確保、若者のUターンを促す原動力。石川に優位性があると証明してくれる。他の企業への影響も大きい」と谷本正憲知事は期待する。

 だが、これらはもともと北陸に拠点がある優良企業の模範例。全国の競争が激化する中で、新幹線効果をさらなる誘致につなげられるかは今後の課題だ。既存企業とのパイプを生かし、北陸の優位性を打ち出す知恵と工夫も求められる。白山市の川北誠喜産業部長が言う。「王道はない。地道な活動がすべて」

  (浜崎陽介、伊東浩一、稲垣遥謹)