石川

【向き合う 統一地方選の争点】(2)介護人材不足待遇改善 待ったなし

2015年4月6日

施設の真新しい部屋で和やかに会話を交わす高齢者ら。新設後まもなく満床となった=富山市内で

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 真新しい部屋で、高齢者六人がテレビを見ながら和やかに会話を交わす。富山市内の特別養護老人ホーム「梨雲苑ゆうゆう」。隣接する全九十床の特養が満床のため、昨年一月に新設された。だが、ここもすぐ全四十床が満床となり、今も百六十人以上の入居待ちが続く。

 「富山市内の特養はどこも同じ状況では。新設してもすぐいっぱいになる」。梨雲苑の神田学・統括施設長が話す。

 富山県によると、県内の要介護認定者数は二〇〇〇年の二万三千人から、昨年三月には五万七千人まで急増。特に、社会福祉法人や自治体が運営し、有料老人ホームなどに比べて安く入れる特養の入居待機者は昨年四月で四千五百七十六人。需要に施設数が追いついていないのが現状だ。県は、要介護者が十年後さらに一・四倍の八万人まで膨れ上がると見込む。

 「すべてを受け入れるのは無理でしょうね」と神田さん。県内の二月の有効求人倍率一・四六倍に対し、介護職は三・六四倍。求人三・六件に一人しか集まらない計算だからだ。業界関係者によると、県東部のある特養では県などの補助金を受けて増床したが、介護職員が足りず、短期入所の利用者を一部しか受け入れられていないという。

 求職者から敬遠される主な要因は待遇面といわれる。県内の介護施設職員の初任給は、大卒でも十四万〜二十万円ほど。今月から介護報酬が引き下げられ、ますます給料を上げるのが難しくなるとみられる。

 石川県内でも人材不足は深刻で、羽咋市の特養では現在の五十床から三十床増やす計画だったが断念。実施設計を終え、県の認可も受けたが、今年二月になって辞退すると伝えた。市担当者によると、東日本大震災の影響による資材と人件費の高騰、介護報酬引き下げの経済的要因に加え、好景気で製造業など他分野に人材が流れがちで人員確保が難しいと判断した。

 七尾市内の医療・福祉施設の経営者は「看護師や介護士ら医師以外は総じて不足している。能登は特にそう。五年ほど前まで求職も多かったが、今は全然集まらない」と嘆く。本格的な人口減少、団塊世代が後期高齢者を迎える二〇二五年問題。そのころには既存施設だけで支えきれない見通しで「在宅で支える仕組みを構築しなければいけない」と訴える。

 珠洲市に二カ所、能登町に一カ所の特養などを運営する社会福祉法人の職員は「不規則で重労働というイメージが定着しているようだ」とも指摘。穴水町の担当者は人材確保に向け「啓発していく必要はある」と話すが、現実には国や県の動きを静観せざるを得ない状況だ。

 六十五歳以上の高齢者向け施設や住まいの整備状況をみると、石川県の充足率は全国上位の高水準だが、介護事業所の職員は圧倒的に足りない。介護人材を育成し現実との“ギャップ”を埋めるため、賃金アップなど労働環境の改善とともに介護サービスの質の維持を図ることが待ったなしの課題だ。

  (豊田直也、近江士郎、小塚泉、加藤健太、荒木正親)