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地方創生が焦点の1つかつて配られた1億円は…

2015年3月22日

年間70万人以上が訪れる福井県立恐竜博物館=同県勝山市で

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 安倍政権が掲げる「地方創生」は、二十六日にスタートする統一地方選で焦点の一つになりそうだ。四半世紀以上前、同じような名前の「ふるさと創生一億円事業」があった。国は全国の各自治体に一億円を配り、職員らは知恵を絞った。地域に根ざした事業で今も役立っている自治体があれば、無駄金になったところも…。

■福井

 福井県勝山市の県立恐竜博物館。肉食恐竜「フクイラプトル」など四十体以上の全身骨格が並ぶ。年間七十万人の入館者を数え、このうち九割は県外からだ。博物館の担当者は「名実ともに『恐竜王国・勝山』は全国に浸透している」と胸を張る。

 勝山市では一九八〇年代に恐竜化石が相次いで見つかった。「あのころは恐竜を地域活性化に結び付けようと盛り上がっていた。ふるさと創生が弾みになった」。当時、市職員で、恐竜博物館一帯の総合公園を管理するNPO法人理事長の上田秋光さん(65)は振り返る。

 市は九〇年、恐竜を生かした町づくりへ一億円のうち八千万円で基金を設置。発掘現場を保護するため市有地にするとともに、化石を展示する博物館の設置構想を掲げ、恐竜王国へと道筋を付けた。市の熱意に後押しされ、福井県が国内初の恐竜博物館として二〇〇〇年七月に開いたのが県立恐竜博物館だ。上田さんは「ふるさと創生事業がなければ、このにぎわいも後ろにずれこんだと思う」と語った。

■岐阜

 岐阜県八百津町は第二次大戦中に「命のビザ」で多くのユダヤ難民を救った町出身の外交官杉原千畝氏を顕彰する杉原千畝記念館を含む人道の丘公園の整備の一部に活用した。

 記念館は〇〇年に開館し、入館者は延べ二十七万人を超えた。外国人ツアー客が年間千五百人前後訪れる。町にはイスラエル人の女性国際交流員もいて、外国人の案内などに一役買う。地元の児童は毎年、杉原氏をしのぶ創作劇を上演しており、公演前には記念館で勉強し、教育面でも役立っている。

■三重

 三重県松阪市は一九八九年、幕末に建てられた御城番屋敷(国重要文化財)を改修。松坂城に通じる道を挟み、二棟の長屋が九十メートルにわたって平行に並ぶ。電柱を撤去しアスファルトを石畳に変え、公開用の屋敷を修繕した。屋敷の年間見学者数はこの十年ほどで一・六倍の三万六千人に。松阪市の担当者は「旅行雑誌やテレビ番組でも度々紹介され、松阪の観光の目玉の一つに育った」と話す。

◆失敗や盗難も

 ふるさと創生1億円は当時のバブルの時代状況ともあいまって中部各地で数々の話題を呼んだ。

 愛知県蒲郡市は、観光PRのため東海道新幹線沿いの小学校屋上に、電飾看板(縦4.5メートル、幅18メートル)の設置を打ち出した。「教育施設にふさわしくない」と主婦らが反発したものの、8500万円かけて90年に設置された。結局、「効果がない」などとして99年に撤去された。

 天守閣型の「墨俣一夜城」(墨俣歴史資料館)の建設の一部に充てたのは、岐阜県墨俣町(現大垣市)。屋根には純金のシャチホコを載せた。2002年に館内で展示してあったシャチホコの5分の1サイズの純金製の雌雄一対が盗まれて大騒動に。作り直した雄の腹びれも06年に再び盗難被害に遭った。

 過疎脱却を目指す山間部で目立ったのは温泉掘削。岐阜県板取村(現関市)や長野県阿南町、同県売木村などで成功し、観光客の誘客や住民の癒やしに一役買った。一方で温泉を掘り当てられずに涙をのんだ自治体もあった。

◆過去の分析と自省、参考に

 <同志社大の今川晃教授(地方自治論)の話> ふるさと創生事業は、住民が地域を見つめ直すきっかけとなった。それまでに地域づくりの取り組みがあり、将来展望を描いた市町村はうまく活用でき、思い付きで事業を進めたところは一過性で終わった。成功失敗という単純な視点ではなく、各市町村の策定過程を検証することは意義がある。地域の特性を分析したか、主体的にかかわる住民グループを巻き込んだか−。現在、地方創生の一環で、各自治体は新しい交付金を受けるため地方版総合戦略を立てつつあるが、ふるさと創生事業の策定過程の分析と自省は参考になるはずだ。

 <ふるさと創生1億円> 当時の竹下政権が1988年と89年、財政的に裕福な自治体を除いて1億円を交付。地方自治活性化のためとして使い道を限定しなかった。大分県中津江村(現日田市)や青森県黒石市のように純金製の置物を購入し、金価格の上昇後に売却して利益を出した自治体もあったが「税金のばらまき」という批判もつきまとった。

 <安倍政権の地方創生> 政府は2060年時点で1億人程度の人口を維持するため、人口減少対策の5カ年計画「まち・ひと・しごと創生総合戦略」をまとめ、20年までに地方で計30万人分の若者の雇用を創出するといった数値目標を打ち出した。地方創生法は自治体に実情に応じた「地方版総合戦略」を策定する努力義務を課した。政府は全自治体に16年3月末までの策定を求めている。自由度の高い交付金を創設し戦略の事業を支援する。