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2017年4月19日 紙面から
現職の河村たかしさん(68)と前副市長の岩城正光(まさてる)さん(62)による事実上の一騎打ちの名古屋市長選は、かつて市政を担った元「上司と部下」の対決でもある。福祉やいじめ施策の推進で力を合わせてきたはずの二人だが、選挙戦では時に愚痴や本音も飛び出すなど火花を散らしている。
「減税がダメと言うならなぜ副市長のときに言わんかったんか」(河村さん)
「役人に全部丸投げ。市長として責任を取らない」(岩城さん)
街頭演説では批判を抑え気味だが、討論会などで面と向かうと、近い立場だったからこその思いが出る。
岩城さんが河村さんに請われて副市長に就任したのは二〇一三年六月。福祉や教育を任され、河村さんが進めるいじめ対策や、三カ所目の児童相談所設置に尽力した。任期一年を残し、解任されたのは昨年五月。市長室で唐突に告げられた。「人事を刷新したい。後進に道を譲ってくれんか」
この決裂を決定づけたのは昨年三月、陽子線がん治療施設の追加費用の支払いを巡る意見対立とされる。弁護士の岩城さんは、裁判前の協議で示された約一億五千万円で事業者と和解するよう勧めたが、河村さんは「金額に根拠がない」と突っぱねた。協議は不調に終わり、事業者が約三億八千万円の支払いを求める訴訟に発展した。
実は、二人にすきま風が吹き始めたのはもっと前。岩城さんは就任半年後、敬老パスの値上げを巡る河村さんの議会答弁に「客観的事実に反している」と発言。これに河村さんは「市長を支えるのが副市長。『発言がおかしい』とか言ったらいかん」と厳しく注意。岩城さんは「市民のために働くのだから、市長の耳に痛いことでも言うのが副市長」と振り返る。
河村さんは、酒を飲みながら意見交換する場を定期的に持ちたかったようだが、岩城さんとは数回だけ。解職理由の一つは「意思疎通を欠いた」だった。
表向きは「福祉分野で貢献していただいた」(河村さん)、「副市長にしてもらい感謝している」(岩城さん)と大人の対応。一方で、河村さんが「待機児童ゼロを達成した」と訴えれば、岩城さんは「現場に行って実現させたのは私だ」と反論する。
この対決構図に市OBは「組織の仕事なので、部下としてトップに従う姿勢があってもよかったかも」。一方、市内の建設会社経営の男性(58)は「部下を大切にしていれば、この対決構図にはならなかったのでは」と分析した。
(市長選取材班)