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<迫る>(上)横顔

2017年4月14日 紙面から

 二十三日の投開票に向け、熱い戦いが繰り広げられている名古屋市長選。公約や信条を訴える街頭や集会では、言い尽くせない思いもある。選挙戦突入を目前にした三月下旬の一夜、有力二候補のなじみの酒場で、素顔や本音に迫った。

 (届け出順)

◇名古屋市長選立候補者(3)=届け出順

河村たかし 68 無現<3> 減

岩城正光 62 無新 

太田敏光 68 無新 

◆河村さん 家業を継ぐか悩んだ

 三千円もあれば、腹いっぱい食べて飲めますから。庶民派を掲げる河村たかしさん(68)の一押しで、待ち合わせたのは東区古出来の自宅から徒歩五分ほどの居酒屋「八剣伝古出来町店」。普段、側近市議や職員らを緊急招集し、夜の作戦会議を開く「第二の市長室」でもある。

 孫たちが自宅に遊びに来ていたこの日。乾杯ビールを口に運ぶと、さっそく孫の話に頬を緩ませた。「きょうはレゴブロックで家を作って、一緒になって『泥棒が来た、警察が来た』とかよ。わしがいじってたら『じいちゃん何やっとるの。ちゃんと作りゃあ』って怒られて」

 自宅兼事務所で妻と二人暮らし。長男夫婦と孫三人は市内で離れて住んでおり、時々やって来る孫たちと遊ぶのが何よりの楽しみ。一番上は小学五年生。じいちゃんは級友からも注目の的らしく、テレビで見て「選挙どうなるの」と尋ねてくる。「聞いてくれてうれしいけど、『まあ、よう分からん』て答えとりますわ」

 衆院議員時代を含め、選挙は八連勝中。それでも、その前の県議選と衆院選で二度の落選を味わった。選挙浪人中「死んだおやじや、おふくろが骨を折ってくれて」。母の知人の発案で企画したバス旅行で、支援の輪が広がった。強力な後援会組織「ハトの会」は、政治用語の「ハト派」とは無関係。会員たちが、活動報告を伝える機関紙を次から次に伝書バトのように届ける姿から名付けられた。

 棒状のチーズを揚げたチーズカリカリ、トマトスライス、馬刺し−。好物が運ばれ、ビールから焼酎へ。瓶には、座右の銘「夢・負けるものか」と刻まれていた。若い時の夢も、政治家でしたか。

 「大学当時は思っとらんかったね。このまま家業を継ぐのかって悩んどって」。古紙回収業の長男。一橋大卒業後に入社し、フォークリフトの作業が得意だったとか。職業の選択肢は結構ありそうだが。あ、司法試験に九回挑戦したんでしたね。「考える力がなかったし、『継がなければ』って親からの洗脳もあった。コンピューター関係をやっていたら、(米マイクロソフト創業者の)ビル・ゲイツになっとったかもしれんなあ」。そううそぶきながら、舌もよく回り始めた。

◆岩城さん 生き直した人生原点

 どこかで耳にした懐かしいブルースが流れる。カウンター十席ほどの昭和レトロな店は、栄のナディアパークに近いスナック「和泉」。弁護士の岩城正光(まさてる)さん(62)が依頼人の紹介で三十年以上、通う「心からリラックスできる空間」だ。夜の集会を終えたその足で到着した岩城さんに、七十代のママ、和泉佐智代さんがウイスキーの水割りをそっと出す。

 「娘からね、メールが来たんだよ」。ぐいっと最初の一口でのどを潤し、スマホを見せてくれた。「きょうは顔が見られて良かったよ。でも心配してるよ。ちょっとでも休んで」。この日朝、金山駅前の街頭でマイクを握っていると、市内で離れて暮らす長女(29)が偶然、通り掛かった。「いきなり握手してきて、誰かと思ってね」。自宅には妻とミニチュアダックスフント。長女や東京にいる次女(27)とは、たまにしか会えない。

 岩城さんにとって「家族」は大きな意味を持つ。五歳で両親が離婚し、兄とともに父に引き取られた。家庭は常に不安定。兄には随分、殴られた。借金取りも来た。そんな事情を知られまいと、小学校では「お調子者」を演じ、問題児扱い。「担任に『クラスの劣等生は岩城だ』ってみんなの前で言われたのはつらかった」と、あっけらかんと話す。

 そんな生い立ちだから、周囲と信頼関係を築くのが苦手だったとか。「二十七歳の時、五歳で別れた母と再会して『捨てたわけじゃない』と泣きじゃくられて。母は自分と体形がそっくりだったんだ」。自分はいったい何者だろう。もやもやしていた気持ちが一気に晴れた。「自分のルーツを知ったというか、ものすごい安心感。絶望感の中からも、生き直せるんだって。人生はこのままなわけじゃないって思ったね」

 司法試験に七回目で合格したのは三十三歳の時。児童虐待問題を扱ううち、子どもの境遇に自身を重ねるようになった。「僕のように生き直してほしい」。その思いが原動力。

 二つ隣の席の客のカラオケが始まった。顔をほの赤くする岩城さん。「真面目で、面白みのない男」と言われることもありますよね。「常にね、人に何をしてあげられるかを考えているんだ」。やや冗舌になり、水割りは三杯目に。

 (市長選取材班)

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