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<庶民革命は今>(3) 住民自治、さめた熱狂

2017年3月30日 紙面から

地域委員会をきっかけに始まった高齢者サロン。事業は頓挫したが、いまも憩いの場=北区で

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 コーヒーカップ片手に、お年寄りが会話に花を咲かせる。「私、寝られんくて…」「そんなもん、しょっちゅうだわ」。西味鋺コミュニティセンター(北区)で月三回ある高齢者サロンは、近所の人の「ちょうどいい」たまり場だ。

 サロンが始まったのは、二〇一三年度の地域委員会モデル事業がきっかけ。学区が手を挙げ、三百万円が支給された。テーブルやコーヒーマシンを買いそろえたが、サロンを切り盛りする元地域委員の片桐幸子さん(63)は「当時はありがたかったけど、やりたいことがないと毎年は必要ないね」と振り返る。

 地域の学区に予算を配分し、選挙で選ばれた住民らが、防犯や地域活性化など使い道を決める「地域委員会」。河村たかし市長が「民主主義のツクシンボ」と銘打ち、新たな住民自治の仕組みとして試みた。だが、〇九〜一三年度にかけての二回のモデル事業は、計四十八の募集枠に対し、実施に至ったのは十五の学区や学区連絡協議会などだけ。運営費や人件費などで計約八億五千万円を費やした末、公約の「全区で本格実施」を前に頓挫。一六年度に「いま一度、地域活動に必要な支援を考える」と廃止された。

 「議員のボランティア化」を目指す河村市長にとって、実は議会の既成勢力にくさびを打ち込むもくろみもあった。既存の区政協力委員や学区連協は、地域に強力なネットワークがあり、選挙でもおのずと影響力を持つ。

 区政協力委は選挙活動はできないが、境界線はあいまいだ。ある委員は「向こう三軒両隣が選挙に出たらどうするの? 言わずもがな、だわ」。中堅市議は「後援会のない議員は、既存の地域ネットワークを使う。選挙ではとても大事」。

 だが、急ぎ足になったがため、住民の思いとずれも生じる。公金を扱うとあってチェックは細かい。予算を配分されても「素人」の住民に手続きは難しい。多忙を極め、一緒に事業を進める仲間を探すのも一苦労。元地域委員の小島盛男さん(72)は「お金を渡されて『何かやって』と言われても、担い手がいなければ事業はできない。もう一度やれって言われてもどうか…」。

 おそろいの白いジャンパーを着た高齢者らが朝、江西学区(西区)の通学路に立つ。モデル事業で作った防犯ジャンパーだが、今も地域活動に重宝している。元地域委員の三輪悠紀夫さん(77)は「市長の理想は高かったけど、現実の運用はほど遠かった」と、かつての熱狂を思い出す。何も告げられず幕を下ろした地域委員会に「リコールまでやって世間を騒がせたのに、尻切れとんぼ」。後味の悪い幕切れに、一抹の寂しさを感じている。

◆河村市長ひと言

 地域委員会は民主主義ですわ。地域の中で「こういう街をつくりたい」と手を挙げて、みんなの前で立会演説会をやって、選ばれる。実際やったところは、みんな「ええ」って言っとります。ただ、地域で選挙やっていくというのは、既存組織とぶつかるわけだわ。既存組織が圧倒的に強いもんで、やっぱりなかなか破れんかった。議会ともつながりがあるもんで、市長与党が過半数ないと無理ですわ。

 役所は地域活動していく人を増やそうとしとるから、ニーズはあるんですよ。地域委員会は終わっとりゃせんよ、別に。ただ、ちょっと姿を変えただけ。

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