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2017年2月24日 紙面から
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名古屋市長選まで十カ月を切った昨年七月下旬、市内のビルの会議室。市議会最大会派の自民の幹部ら数人が岩城正光(まさてる)(62)を囲み、一人が切り出した。
「なぁ、考えてもらえんか?」
つい二カ月前、市長の河村たかし(68)が、目を付けた別の市幹部に交代させたいとの理由だけで副市長の職を解かれた岩城は、福祉や教育など取り掛かっていた仕事への思いを断ち切れないでいた。
「検討させてください」。岩城は静かに答えた。
八年前に河村市長が誕生して以来、河村の「庶民革命」の抵抗勢力として矛先を向けられてきた市議会。市議会解散の署名活動や、報酬半減を仕掛けられ、煮え湯を飲まされてきた。
今回、不戦敗は避け、河村包囲網となる自民、民進、公明の三会派が相乗りできる対抗馬を−。自民のベテランらにとって、副市長の経験がある岩城はまさに意中の人。自民幹部らは副市長解任直後から接触を続け、昨年十二月、岩城は「河村市政の刷新」を掲げて出馬を表明した。
だが、河村に真っ向から「交代」を突き付ける動きは広がらない。
過去二回の選挙戦で、自民、民主(現民進)は手を携えて対抗馬を推したが、大差で敗退。「こんなに差がつき、正直、河村が怖かった」。四年前、身内の候補を立てて戦った自民の中堅は「かつてないほど」の力の入れようで活動した。だが、ふたを開けてみれば二十三万票以上の大差にがくぜんとした。
「河村に勝てる戦いなのか」。各党の党本部や県連レベルは早々と静観の構えをみせる。二〇一一年や一三年の市長選では河村の対抗馬に推薦や支持を出して関与してきた民進(旧民主)県連だが、今回は幹部が「国政選挙じゃなく、市民の代表を選ぶ選挙」と素知らぬ顔。三会派の市議それぞれも温度差が大きい。「うちだけでやっても厳しい戦いになる」「政党や議会が前面に出ると、河村の思うつぼ。議員一人一人が実質的に応援すればいい」
市議たちの頭をよぎるのは、岩城の支援に表だって動けば「河村対議会」の対決構図がよりいっそう鮮明になることだ。自分たちの「アキレス腱(けん)」として触れられたくない報酬や定数、任期制などの議会改革がことさら取り沙汰され、市民の目にはまたもや改革の抵抗勢力と映し出される。
河村が接近を図る東京都知事の小池百合子との連携も気掛かりだ。「選挙になれば、小池が応援に来るかもしれない。都議会の小池対自民のようになってはいけない」。あるベテランは胸の内を明かす。
今年に入り、焦った自民の一部からは「三党が乗れる誰か大物を」との声が飛び出す始末。元プロ野球監督に立候補の感触を探ったが、あっさり断られたという。
今月十七日夜、名古屋市内であった岩城の支援者集会。会場からあふれるほどの約四百五十人が集まったが、三会派五十一人のうち姿を見せた市議は三分の一の十七人。「お通夜」や「地元の会合」を理由に、多くが欠席した。
当初描いた形が崩れ、三月にホテルの宴会場を押さえて計画していた政党主導の岩城の選挙資金パーティーも、いつの間にか立ち消えに。そんな市議たちの思惑を振り払うように、岩城はきっぱりと言い切った。
「政党に担がれるのは、僕のスタイルに合わない。政党の支援にこだわらず、思いのある市民とともに戦っていく」(文中敬称略)