静岡

市長選ルポ 節目のはままつ<下>新人の嶋田博さん

2015年4月8日

◆暮らしが第一強調

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 「想像以上にひどい。市街地の人にも、この状況を知ってもらいたい」

 一日午後、小雨がぱらつき、霧が立ち込める浜松市天竜区佐久間町の谷あい。街頭活動に回る途中、土砂崩れで天竜川に崩れ落ちた原田橋を目の当たりにした新人の嶋田博さん(66)は、その場に立ち尽くしてしまった。

 次いで出た言葉は、一騎打ちの相手となった現職の鈴木康友さん(57)が進めようとする行政区再編に対する危機感だった。「区が再編されたら、ますます住民の声が届かなくなる」

 この日、同じ天竜区内の簡易郵便局前で、意を決したように声を張り上げる嶋田さんの姿があった。「どこに住んでいても行政サービスは平等に受けられないといけない。区役所は防災の拠点。市民に便利な区役所にしないといけない。これが私の公約です」

 現行の七区を守る−。現職と真っ向から対立する主張にこだわるのは、争点をはっきりさせることで「旧浜松市域外の区再編に不満を持つ有権者の票を取り込める」(陣営幹部)との読みもある。街頭演説などに集まる有権者も、天竜区や北区、浜北区で反応がいいという。

 区再編だけでなく、産業振興でも「大企業より中小零細企業への支援を優先」と主張。対照的な政策をいくつか打ち出すことで、現職批判を幅広く取り込む考えだ。

崩落した原田橋の現場を訪れ、支援者らと対策について嶋田博さん=1日午後、浜松市天竜区で

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 大票田となる市街地も軽視しているわけではない。推薦をもらっている共産党は、県議会の議席ゼロ解消を目指し、県議選で中区に公認候補を出して必勝態勢を組む。嶋田さんも同党の県議選や市議選の各候補と一緒に人が多く集まる場所で演説し、相乗効果を狙う機会が多い。

 安倍政権を批判し、浜岡原発の廃炉や消費税増税反対を訴えるなど国政につながる政策は同党と共通する。

 志位和夫委員長がJR浜松駅前に駆け付けた四日午後の演説会では、選挙カーの上で真っ先にマイクを握り「大企業に補助する一方で市民サービスを切り捨てる市政を、市民の暮らし・福祉第一に切り替える」と訴えた。

 知名度が現職より圧倒的に足りないことは自覚している。出馬を表明したのも三月中旬と遅かった。「しまだ」の名前を同党の支持者に浸透させるだけでも時間が足りず、焦りは募る。志位委員長が去った浜松駅前には、聴衆が散るまで、一人でも多くの有権者に知ってもらおうと、握手を繰り返す嶋田さんの姿があった。

(高橋貴仁、写真も)