静岡

市長選・節目のはままつ行政区再編<下>

2015年3月3日

◆選挙の損得 議論阻む

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 「抵抗する議員は、自分の選挙のことしか頭にないんだよ」

 浜松市の行政区再編に前向きな浜松市議の一人は、市議会で再編の慎重派が多数を占める現状を、そう嘆いた。

 政令市の行政区が統合され、一区当たりの面積が広くなり、人口が増えると、影響を受けるのは住民だけでない。区ごとに選出される地方議員にとっても、区の枠組みが変われば支持基盤によって有利に働いたり不利になったりして、死活問題につながるためだ。

 公職選挙法の定めで、政令市の県議・市議の選挙区は行政区の区域と重なる。浜松市で過去の県・市議選を振り返ると、十二市町村の合併前の二〇〇三年と政令市移行後の〇七年では、選挙区や選挙区ごとの定数が大きく変わった。

 旧浜松市は、〇三年には県議は定数一二、市議は定数四六の議席を旧市全域で争う大選挙区だった。それが政令市に移行した〇七年には中、東、西、南、北の五区に分かれ、西、北の両区には別の選挙区だった旧浜名郡や旧引佐郡も新たに加わった。

 県議は会派別の構成に特徴的な変化が現れた。自民党(現自民改革会議)と、民主系・労働組合系の議員らでつくる平成21(現ふじのくに県議団)の二大会派以外の議員数が、合併前の〇三年は旧浜松市内で四人、編入した旧市町村の選挙区を含めると五人だったのに対し、〇七年は二人、一一年は一人に減り、公明、共産両党はゼロになった。

 特定の団体などを支持基盤とする両党や労組系候補は、選挙区域が細分化されると支持者が分断され、区ごとに獲得できる票が減る傾向がある。このため比較的定数が少ない県議選の場合、政党や候補によって当選圏外になる可能性が高くなる。

 逆に、区再編で選挙区域が広がれば、これらの候補は票の上積みが期待できることになる。

 市議選では、住民加入率が96%に上るほど自治会組織が根付いている土地柄もあり、いくつかの自治会が地区ごとに集まった自治会連合会を支持基盤にする候補が自民系を中心に多い。中区選出の市議は「連合会を一つでもしっかり票固めすれば当選圏に入る」と指摘する。

 区再編で選挙区域が広くなっても、限られた地区に支えられた候補が獲得する票は基本的に変わらない。県議選と同じく、選挙区全域に支持者がいる候補が票を上積みすれば、当選はおびやかされることになる。

 浜松市議会の各会派に区再編への賛否を聞くと、市長に近い議員や労組系議員でつくる創造浜松や市民クラブは推進派だが、地域に密着した議員が集まる自民党はやはり慎重派が多い。区再編で有利になりそうな共産党は、現職市長との対立軸を明確にする意味もあって反対しており、支持基盤のあり方だけで単純に決め付けられない。

 区再編は選挙と密接に絡むからこそ、市議会ではなかなか議論が進まないのが実情だ。

(古田哲也)